『私のことだま漂流記』(講談社)
『私のことだま漂流記』(講談社)

 島田くんも「久しぶりだね、延江くん」と呼んでくれ、小川哲を「君が話題の小川くんか」と迎え入れ、島田くんは『パンとサーカス』、小川くんは結果的に直木賞となった『地図と拳』の長編を上梓したこともあり、ポンちゃんの言うところの「文芸な夜」が展開された。ほどなくジャーナリストの青木理さんと新聞記者望月衣塑子さんが現れ、店は賑やかになった。何人かに「山田詠美さんの結婚式を手伝ったんですね。『私のことだま漂流記』で読みました」と声をかけられ、ポンちゃんはこの店にやってくる「同級生たち」に親しく読まれているのだなと思った。

『私のことだま漂流記』は毎日新聞「日曜くらぶ」に連載されたものだが、刊行前のトークイベントで「宇野(千代)先生と同じところに書くことができるなら、私なりの『生きて行く私』しかない。この紙面を待っていたんだなと思った」とポンちゃんは振り返っている。

 彼女の本を読了後、さっそくその『生きて行く私』を読み始めたら面白いのなんのって。夢中になりすぎ、駅を乗り過ごしてしまった。その他にも小川未明、吉屋信子に草間彌生、ジェームズ・ボールドウィンなど人生を楽しむ上で読んでおきたい作家がたくさん出てくる。現代文学指南書としてもうってつけ。これこそ国語の教科書になるべき一冊だ。

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞。新刊「松本隆 言葉の教室」(マガジンハウス)が好評発売中

週刊朝日  2023年2月3日号

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