今回の映画祭は“改革元年”としても位置付けられていた。これまで東京国際映画祭は「開催地の東京が目立っていない」「スターが来ない、名ばかり国際映画祭」「アジアの国際映画祭でも釜山などに圧倒されている」など厳しい批判も少なくなかった。そこで、2019年の第32回から安藤裕康チェアマン、2020年の第33回から市山尚三ディレクターが加わり、作品選考の見直しや映画祭のイベントの改革に着手した。とりわけ大きかったのが、開催場所の移転だ。
1985年に渋谷で第1回が開催された東京国際映画祭は「Bunkamuraを中心に渋谷の各映画館で作品が上映され、映画祭という雰囲気が町全体から出ていた」(長年取材する外国メディア記者)という。一方で、2004年から昨年まで開催されていた六本木では、国際映画祭としての雰囲気が伝わりにくいと、関係者から苦言も多かった。基本的にメーン会場である六本木ヒルズでほぼ完結してしまい、看板やポスターも目立たない。それゆえ、六本木ヒルズを行き来する人ですら映画祭の開催にあまり気づかない。「国際」とは名ばかりの、映画好きだけの“知る人ぞ知る”映画祭になっていた。
■JR有楽町駅前に特設エリア
しかし今回、日比谷・有楽町・銀座エリアへの移転を機に「映画祭の雰囲気作り」に注力した。
JR有楽町駅前には、特設チケット売り場、上映作品ポスターをまとめた看板、イベント上映ブース(座席数は少なかったが)を設置。安藤チェアマンは「人通りの多い場所に設置したことで、映画祭の存在を知らない人にも気づいてもらえるように」と認知度向上を狙った。日比谷ミッドタウンの下の広場で連日行われた屋外上映会と合わせて、街として映画祭を盛り上げようとする機運があった。
11月5日に特設チケット売り場にいた千葉在住の女性はこう話した。
「東京国際映画祭の存在自体は以前から知っていたのですが、今日、用事のために銀座に来て、『映画祭、今やっているんだ』と気づきました。(このような雰囲気は)良いですね。見てすぐわかります」