正月名物の箱根駅伝では、山登り区間などレース途中で失速する選手が見られる。万全な体調で臨んだ選手たちに何が起こったのか。原因は何か。専門家に聞いた。AERA 2023年1月30日号より紹介する。
【写真】箱根駅伝で活躍した大迫傑選手の妻・あゆみさん。栄養講座の講師も務める
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箱根の山で失速した──。
ラストで足が止まり、フラフラに──。
今年の箱根駅伝で選手の走りを伝える記事だ。失速は今年に限らない。鍛え抜いた学生アスリートがなぜ失速するのか。
北里大学北里研究所病院糖尿病センター長の山田悟医師が解説する。
「選手が走るのは1時間ほど。本来はエネルギー補給なしに走り切れるはずの距離です。スポーツ栄養学では口をすすぐ程度の糖質で75分は走れるとされています。考えられる原因として、脱水や低体温、低血糖があると言われています」
■「カーボローディング」
脱水や低体温はわかる。だが、健康そうな学生が低血糖になるとはどういうことなのか。
食後に血糖値が若干上がるのは普通のこと。問題なのは血糖値が過剰に上昇し、その反動でその後に急激に下がることだ。血糖の急降下に伴い、疲労感、思考力の低下、飢餓感などが生じるのだ。
実は、血糖値の急上昇、急降下を起こしている選手は多いのではないかと山田医師は危惧する。
「食後血糖値は140までが正常で、200以上は糖尿病の診断基準ですが、私は食後血糖が200~300まで上がる長距離ランナーを何人も診ています。こうしたランナーが食後に走ると、血糖の急下降、そして失速も起こしやすいと思います」
山田医師によると、アスリートに血糖の乱高下が生じるのはカーボローディングの影響だという。糖質を取ってエネルギー源となるグリコーゲンを筋肉に蓄えようとする食事法のことで、例えば、試合の数日前から主食を多量に食べ、走る前にも糖質飲料を飲むスタイルだ。
ただ、アジア人は食後高血糖になりやすいことがわかっている。筋肉にグリコーゲンを蓄えられず、血糖値を急上昇させているだけかもしれない。
食べ始めから30~90分の間に、血糖値はピークを迎える。そして、食べ始めから120~180分の間に、最低になる。糖質の高いものを食べた後、まさに走っている最中に低血糖になりやすいのだ。