新型コロナウイルスが増殖する際に遺伝情報(mRNA)が複製されるが、一定の頻度でランダムに複製エラーが生じる。エラーによって偶然、ウイルスが増えやすくなったり、感染しやすくなったりすることもまれにあるが、多くの場合、エラーが起きると増えにくくなるなどウイルスの生存に不利になる。

■「エラーで死滅」の仮説

 このため、新型コロナウイルスには、エラーを修復する働きを持つ酵素がある。それが「nsp14」だ。井ノ上教授らが感染研の公開しているゲノムデータを調べたところ、第5波では、nsp14の394番目のアミノ酸に変異が起きたウイルスの占める割合が感染拡大とともに増え、ピーク前から終盤にかけて100%近くになっていた。この変異があるウイルスを調べると、従来型に比べ、複製エラーが有意に多かったという。

「こういったデータから、感染者が急に減ったのは、エラーが蓄積し、ウイルスが増殖できなくなり、死滅したからではないかという仮説が立てられます」(井ノ上教授)

 今後、仮説を実証する研究を続けるという。(科学ジャーナリスト・大岩ゆり)

AERA 2021年11月22日号