著者によるとBTSファンは年齢やジェンダー、国籍や人種などが多様な人々からなり、4割ほどが男性と見られるそうです。著者は、男性がBTSファンであることを周囲に明かした場合は「すごい、かっこいい」と好意的に受け止められるのに、女性ファンには“男性の容姿に熱狂するだけの無知で愚かな消費者”という視線が注がれることに注目します。こうしたアイドルの音楽と消費者を同時に卑下する偏見は「明らかに社会全般を覆う『ミソジニー(女性嫌悪)』に根ざしている」という指摘に、頭を殴られたような思いでした。本に向かって思わず「ごめんなさい、それ、俺です」と呟いたほど。私が無意識のうちに内面化していたアイドル軽視の眼差しは、世間から「女子アナ」と揶揄(やゆ)され軽んじられる際に浴び続けた眼差しと同根だったことに気づいたのです。自身を苦しめた眼差しを、私は他者に向けていました。BTS沼に身を投げることは、自身に潜在するミソジニーとの訣別なのかもしれないと思った瞬間、「跳べ!」と背中を押す手の温もりを感じました。この語り自体、傍目にはどうかしているでしょう? けど、沼には落ちてみるものですね。
小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中
※AERA 2021年11月22日号