写真は「水俣曼荼羅」から (c)疾走プロダクション
写真は「水俣曼荼羅」から (c)疾走プロダクション

 下世話な興味からではないという。水俣病を発症し、いまも震える手で舟作業をする。海に出る姿を時間をかけて映した上で、妻とのなれ初めについて語る場面に入っていく。生駒さんの少年のような笑顔が魅力に富んでいる。

 後日、玄関先で生駒さんの頭を、妻がバリカンで刈り上げていく一コマがある。

「たまたまあの日、生駒さんの家に行ったら、きょう散髪するんだよと言うので、撮らせてよとお願いしたんです。そう。なごむ場面でしょう。だけど私が驚いたのは、最後に鼻の下のひげもそるんですよね、バリカンで。ええっ!?となりました。見ている側の思い込みを裏切ってくれるのがドキュメンタリー。そういうシーンがたくさんあるほど面白い映画になるんですよね」

写真は「水俣曼荼羅」から (c)疾走プロダクション
写真は「水俣曼荼羅」から (c)疾走プロダクション

 ほかにも試写室に「ええっ!?」という声が起きたのは、「包丁」のシーン。本大の解剖学の浴野成生教授が、保存されていた患者の脳を解剖するという際に、家庭用の包丁を取り出すのだ。

「私も驚きましたよ。だけども、それは私たちが勝手に思い込んでしまっていることなんですよね。当然、専門の器具を使うはずだと。私、浴野さんに言いましたもの。『これ、家庭の包丁じゃないですか?』と。そうしたら、心外だという表情で『新しい包丁を買ってきて使っているんだから』と反論される。もちろん、ぞんざいに扱っているわけでもないんですよ」

 水俣病の物語の中ではこれらは枝葉末節のディテールだが、笑いとともに観客は医学に携わる者のリアリズムと、市井の意識とのズレを目撃することになる。

 日本軍の戦争犯罪を問い詰める元兵士の奥崎謙三氏にカメラを向けた「ゆきゆきて、神軍」もそうだが、ドキュメンタリーはシナリオのないドラマ。意外な場面に遭遇した際、現場でワクワクするものなのだろうか。

「そりゃあワクワクします。ええっ!?という場面に立ち会うんですから、感動しますよ。その後のカメラワークもそうですが、その余韻は映像に映りますから」

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