民放バラエティー番組ディレクターは言う。
「今回の騒動は、痛快でもあり、ぶざまでもあったという、まさに芸人・太田光としての姿を物語っています。太田さんは漫才でも政治ネタを頻繁にやっていますが、今回の発言を聞いていても、派閥の論理など政局にも精通していて、かなり勉強していると感じました。普段の芸風からは想像できないですが、酒も飲まず、クルマの免許も持たず、仕事が終われば自宅に直帰してネタ作りや読書に時間を割くほどの努力家なんです。今回の生放送で露呈したあの“教養力”はもっと褒められるべきではないでしょうか。吉本勢とはまったく違うスタイルで売れ続けてきた爆笑問題には、根強いファンがいますが、こういうアカデミックな素養こそが彼らを売れっ子芸人にした秘訣だと思います」
今回の騒動はすでに沈静化したようだが、爆笑問題の活動に何らかの影響を及ぼすことはありえるのか。
「自民党幹部を激怒させたわけですから普通に考えれば大事件です。テレビ局だって今後取材をしづらくなる可能性もあったはずから。しかし、くしくも自民党が単独過半数を取ったことが功を奏したのか、表向きにはさほど問題にはならなかった。ある意味、確信犯的に太田さんに斬り込ませた、今回の生放送特番の仕掛け人はすごい離れ業をやってのけたと思います。大手事務所所属の芸人やタレントなら、あんなふうに忖度ナシで斬り込むことは不可能です。タイタンという個人事務所だからこそ騒動になったと言ってもいい。とはいえ、今やYouTubeやABEMA TVなどで“忖度なき生放送”は主流になりつつあります。地上波でも今回の太田さんぐらい暴走してもらわないと、話題にすらなりません」(前出のディレクター)
お笑い評論家のラリー遠田氏は太田と他の芸人との違いについてこう分析する。
「太田さんは政治や社会のことを漫才やトークのネタにすることが多いので、社会派の芸人であると思われがちですが、そのアプローチ方法はほかのタレントとは全く違います。普通のタレントが政治や社会についてコメントをするとき、世間で信じられている一定の常識や正義というものを前提にして、その枠の中で発言します。しかし、太田さんの発する言葉はすべて『自分はこう思う』という確固たる信念のみに裏打ちされていて、既存の正義や倫理を前提にしていません。世間一般で正解とされていることを疑い、自分の頭で考えたことだけを話そうとするのです。そんな知的誠実さを重視する太田さんが本当に言いたいことは、テレビの限られた時間の中では伝えられないことが多いため、誤解を招いて批判されてしまったのでしょう。今回の選挙特番でも、番組内で伝えられなかった太田さんの真意は、ラジオ番組『爆笑問題カーボーイ』の中で語られています」
結成33年にして、今もお笑いの第一線で活躍する爆笑問題。売れ続けるなかでも衰えない太田の「圧倒的な個性」は、お笑い界の貴重な財産といえる。(藤原三星)