「我が心の香港」
70歳を超えても映画を作り続けるアン・ホイの公私の姿を丹念に追う。親交のあるツイ・ハークやアンディ・ラウなど名だたる映画人のインタビューも
2020(c)A.M. Associates Limited
「我が心の香港」 70歳を超えても映画を作り続けるアン・ホイの公私の姿を丹念に追う。親交のあるツイ・ハークやアンディ・ラウなど名だたる映画人のインタビューも 2020(c)A.M. Associates Limited

■社会の変化を見つめる

 そんなアン・ホイ監督がプロデュースした映画「花椒(ホアジャオ)の味」も公開中だ。父の葬儀で初めて出会った3人の異母姉妹の交流と再生を描きつつ、現在の香港の立ち位置をさらりと匂わせる。父と不仲だった長女は香港、母親との軋轢(あつれき)に悩む次女が台北、祖母と暮らす三女は重慶に住まう。香港ではトンネル、台北では堤防、重慶ではロープウェーを効果的に用いて、つながるはずなのにうまくいかない肉親との心の距離も描く。メガホンを取ったのは、アン・ホイ監督が才能に惚れ込んだヘイワード・マック監督。香港映画の未来を担う逸材だ。

 11月27日からは全国5都市で「香港映画祭2021」が順次開催される。リム・カーワイさんがキュレーターとして今回7本をラインアップ。今まで日本で紹介されていない香港の商業映画にこだわった。

「ドキュメンタリー映画のように、最近の香港の変化を直接的に描いたものではありませんが、実は香港社会の変化を静かに見つめている。香港映画のアイデンティティーを強く意識した作品ばかりです」

 その1本が、「夢の向こうに」(20年)。先日開催された国際映画祭「第22回東京フィルメックス」の最終日に特別上映された作品「時代革命(REVOLUTION OF OUR TIMES)」のキウィ・チョウ監督による初のラブストーリー。「時代革命」は警察と衝突しながら最前線で戦う市民の姿をとらえたドキュメンタリーで、香港では上映できない。7月のカンヌ国際映画祭に続き、フィルメックスでも前日までタイトルは明かされなかった。

「夢の向こうに」
政治的話題作を作ってきたキウィ・チョウ監督によるラブストーリー。「心理学の用語がたくさん出てきて、構造的にも難しい」にもかかわらず大ヒット
(c)香港映画祭2021
「夢の向こうに」 政治的話題作を作ってきたキウィ・チョウ監督によるラブストーリー。「心理学の用語がたくさん出てきて、構造的にも難しい」にもかかわらず大ヒット (c)香港映画祭2021

「キウィ・チョウ監督の作品は、政治的な映画ばかりではありません。最初は観客が全然入りませんでしたが、『カメラを止めるな!』のように、有名人がSNSにのせたら大ヒット。社会現象になりました。幻覚が鍵となっている物語だけに、現実と、見えない未来の間で不安を抱える今の香港人の精神状態にすごくマッチしたのではないかと思っています」(リムさん)

■サバイバルの仕方

 中国返還前はもとより返還後も一国二制度の下、比較的自由に映画が作られてきた香港。1970年代にはブルース・リーのカンフー映画などが日本を始め世界各地で人気を博し、「東洋のハリウッド」とも称された。

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