Heiward MAK/1984年生まれ。23歳で長編デビュー。監督、脚本、プロデューサーと幅広く活躍。一番好きな香港スターはレスリー・チャン
Heiward MAK/1984年生まれ。23歳で長編デビュー。監督、脚本、プロデューサーと幅広く活躍。一番好きな香港スターはレスリー・チャン

 アジア映画事情に詳しい日本映画大学映画学部長の石坂健治さんは、「香港映画は国安法の前から徐々に衰退してきた」と指摘する。アジア通貨危機や03年のSARSの流行による不況、香港映画の輸出減少などが影響し、制作本数は200本以上あった93年をピークに減り続け、19年に制作された香港映画は50本弱。今や「純粋な香港資本の映画は十数本では」(リムさん)との声もある。多くの香港映画人が中国に向かい、合作映画と中国市場に頼っている現状では、かつての輝きを取り戻すことは難しい。

 そんな香港映画のサバイバルの仕方を石坂さんは二つ挙げる。

「今年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で大賞を取った『理大囲城(りだいいじょう)』のように、地下に潜って匿名で海外の映画祭に出品し、作品を知ってもらう方法が一つ。ただ、これはビジネスにはつながらないし命懸けです。もう一つは『玉虫色の表現』の中に言いたいことを隠して魂は売り渡さない。香港映画は昔からそれがうまいんです」

■密かなメッセージ

 いじめの問題が描かれた「少年の君」(19年、公開中)は、政府のプロパガンダ的なラストに評価が割れた。だが、石坂さんは、

「人々が集まって抗議するシーンがあるのですが、土砂降りの雨でみんな雨傘をさしている。その雨傘の群れを後ろから撮っているんです。覚えてない人もいるくらいの短い一カットですが、私は雨傘運動を思い出してしまった。雨に傘は当たり前の表現だけど、密かなメッセージかもしれないと考えてしまいました。今年見た映画の中では強烈な印象でした」

 香港映画は進むのも止まるのも、政府の意向に影響を受けざるを得ない。ヘイワード・マック監督が、「今、自分自身にとって最も必要なのは、観察すること、好奇心を持ち続けること、型にはまらないこと」と話すのは、我が身を守るためにも当然なのかもしれない。(フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2021年11月22日号

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