
香港の国安法がますます厳しくなった。過去に制作された映画についても検閲を強化するという。そうした状況下でも、香港映画人は映画を作り続ける。AERA 2021年11月22日号から。
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過去の作品まで検閲されるのか──。2020年に中国主導で統制を強化する「国家安全維持法(国安法)」が成立した香港だが、今年10月下旬、過去に上映許可された映画も検閲を強化するというニュースは、多くの映画人を震撼させた。
香港映画事情に詳しいマレーシア出身の映画監督リム・カーワイさんは言う。
「国安法の成立までは、まだ香港には映画を作る自由、あるいは表現の自由があると信じていた香港映画人は多かった。でも、今年6月の検閲強化によって海外へ移住する知人が増えました。さらに10月の、過去の作品に遡(さかのぼ)っての検閲強化のニュースで、多くの人が恐怖を感じている状態にあります」

■日常生活に寄り添う
どこまでも分厚い雲が覆うような香港映画界。だが、リムさんは厳しい状況を認めつつ、香港映画の可能性も話す。
「14年に雨傘運動が起こり、社会の変化に従って、香港映画には人々の日常生活に寄り添うような作品が生まれてきました。政治的な影響が皮肉にも、香港映画をより強靱にしたところがあります。ほとんど作られていなかったドキュメンタリー映画も盛んに作られるようになった。しかも、レベルが高い。香港映画は常に時代や社会の変化に柔軟に対応できるような性質を持っている。これからも新しい才能、可能性を開いてくれるのではないかと思うんです」
香港映画はどう変わってきたのか。まとまって香港映画が上映される今月は、自分の目で香港の今を目撃するチャンスだ。
香港のアカデミー賞に当たる「香港電影金像奨」でただ一人、最優秀監督賞を6度受賞している名匠アン・ホイ。多くの香港映画人が中国へ軸足を移す中、香港にこだわり続ける貴重な存在だ。彼女のドキュメンタリー映画「我が心の香港 映画監督アン・ホイ」(公開中)は、香港ニューウェーブの旗手といわれ、70歳を過ぎた今も映画を撮り続ける彼女の公私に迫る。臨機応変に映画を作り続けてきた香港映画人の魂が明らかになる。