「1日の睡眠時間には個人差がありますが、平均は米国人で7.5時間、日本人で7時間ほど。一方、割合は小さいですが日に3~4時間しか寝ない人や、10~12時間寝る人もいます。4時間未満はショートスリーパー、10時間以上はロングスリーパーと呼ばれます」
この分類で考えると、大谷はロングスリーパーと言えそうだ。では、長く眠れば眠るほどスポーツの成績向上や健康につながるかというと、一般的にはそうは言えないという。西野教授が続ける。
「統計的に見て、睡眠時間が平均に近いほど健康で、疾患リスクや死亡率が最も低い。一方、睡眠時間が極端に短い人や長い人は、数年間の追跡調査の結果、様々な病気のリスクが高くなることがわかっています。1日10時間以上寝る人の場合、昼間の眠気や目覚めの悪さ、体の不調などがあると、睡眠障害の過眠症と診断されることもあります。一方で例外もあって、睡眠時間が短くても長くても、いたって健康な人もいる。テレビなどで見る限り、大谷選手も疾患等の兆候は認められない。健康なロングスリーパーという、珍しいケースかと思われます」
◆プロ野球選手は「時間差勤務」
ところで、睡眠という観点から見ると、プロ野球選手という職業は、実はかなり過酷だ。筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の徳山薫平教授は、大谷が16年に在籍していた日本ハムファイターズの全試合の試合時間データをもとにこう語る。
「週末のデーゲームと平日のナイトゲームでは、試合開始時間が5時間異なる。これは医療関係者や消防士、コンビニ店員など交代制勤務の職場と近い条件です。交代制勤務で睡眠時間が頻繁に変化すると、一般的にメタボリックシンドロームや高血圧、がんなど色々な病気の発症リスクを高める可能性がある。うつなど精神疾患のファクターにもなり、もちろん集中力にも悪影響が出ます」
シーズン中の野球選手は体を酷使しながらそんな生活を半年間続けるわけで、体や脳への負担は大きい。夏に成績が落ちる選手を夏バテや疲労だと解説することがあるが、交代制勤務の影響がボディーブローのように響いて体調を崩している可能性もある。