「国税は融資した銀行から、融資時の稟議書も提出させています。そこには明確に、相続対策を目的とした不動産の取得と書かれていた。Aさんたちに関しては相続して1年足らずで評価額1億3千万円で相続した物件を5億円以上で売却していました。租税回避が明らかだったために、否認されたわけです」(松嶋氏)
現金を不動産に替えて評価額を引き下げ、さらに借入金分を控除する相続税対策は定番だが、露骨すぎると目をつけられるので注意したい。
同様に、今後締め付けが厳しくなると見られる不動産を利用した相続税対策がある。「複層化信託」という方法だ。
「親が所有する賃貸マンションを信託して、賃料収入を受け取る収益受益権と、信託財産そのものを受け取る元本受益権に分離。相続税の評価では信託期間の初期の元本受益権の評価は小さくなるので、それを子に贈与すれば、贈与税の負担を抑えることができる。一方で、親が持ったままの収益受益権は信託期間の後期になるほど評価が下がるので、相続するタイミングでの節税も可能になっている」(同)
年間500万円の賃料収入が見込める1億円の不動産について、期間10年で複層化信託したら、当初の元本受益権は1億円から5千万円程度に圧縮されると試算される。そのタイミングで元本受益権だけを子に贈与すれば、10年後の信託終了時には親が保有している収益受益権はほぼゼロになっているため、相続税が大幅に節税できてしまうわけだ。
「従来から危険と言われてきたが、節税効果の大きさから複層化信託に国税がいよいよ厳しい対応をする可能性が高い」(同)
もう一つ、気をつけたいのは名義預金だ。前述のとおり、110万円の暦年贈与は定番の相続税対策だが、受贈者となる子や孫の名義で親や祖父母が口座をつくり、毎年110万円振り込むだけなら贈与と見なされない可能性がある。受贈者が口座のお金の使途を決められない、ないしは贈与を受けていた認識もなかった場合には、名義預金と見なされ、相続財産に加算されるのだ。