「安定」の代名詞だった正社員。しかし、近年は低賃金で雇用も安定しない「名ばかり正社員」が増えている(撮影/写真部・張溢文)
「安定」の代名詞だった正社員。しかし、近年は低賃金で雇用も安定しない「名ばかり正社員」が増えている(撮影/写真部・張溢文)
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 正社員であっても、低賃金で働くことを余儀なくされている人もいる。最善策は最低賃金のアップという。中小企業の負担を解決するためにも政治の力が求められる。AERA 2021年11月29日号から。

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 制度の隙間を突いた問題も浮上している。

「名ばかり正社員です」

 と話すのは関東地方に住む40代の男性。2年前から無期雇用派遣として派遣先の大手メーカーのIT部門で働いている。

 無期雇用派遣とは常用型派遣とも呼ばれ、一般的に派遣会社の正社員となり様々な派遣先に派遣される雇用形態だ。2015年に改正労働者派遣法が施行され、同じ職場で働ける期間は3年と定められた。

 雇用の安定化を図るためにつくられたのが無期雇用派遣で、18年以降、大手派遣会社が続々と取り入れるようになった。無期限に働け、次の派遣先が見つからない場合も派遣会社から給与が出る。会社によっては賞与や退職金も支給されるというメリットがある。

 先の男性は、元々10年以上、別の会社の正社員として働いていたが、転職で失敗。退職し、契約社員となった。少しでも条件のいい就職先を探していたところ、登録していた今の派遣会社から誘いがあって入社した。月収は手取り22万円程度。年収で前職より15万円近く上がることなどが魅力だった。

「けれど、実情は使い捨て要員です」

派遣先がないと解雇

 派遣先との契約は3カ月更新で、仮に契約が終了し次の派遣先がない待機期間中は手取りで月15万円程度しか支給されない。さらに、次の派遣先が一定期間確保できないときは解雇になるとも知った。派遣会社にマージンとして月16万円程度抜かれるため、派遣先の正社員とは倍近く違うともいう。

 7歳の長女を頭に3人の子どもがいる。妻(40代)は障害があるため、働きに出られない。生活はカツカツで、何よりつらいのは今の収入状況では子どもにお金をかけられないことだ。その結果、子どもたちの可能性の芽を摘んでしまうことになるのでは、と悲観する。

「正社員というのは建前だけ。派遣会社の商品として、いつ使い捨てられても仕方がない存在だと考えています」

 派遣ユニオン書記長の関根秀一郎さんは、次のように話す。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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