20人以上に話を聞き、事業を組み立てていった。このとき、あるヒントをもらう。
「世の中には2種類のワーケーションがあると定義している人がいました。一つは仕事に集中するために部屋にこもること。もう一つはアイデアを探しに行くこと。その両方ができるホテルが充実した予約サービスを作れたらいいんじゃないかと思ったんです」
だが、走り出した頃の富士さんは、ホテル業界についてはまったくの素人。知識も伝手ももちろんない。営業の電話をかけても、断られることが多かった。
「最初にワーケーションと言われたときは、『あんまり儲からないと思うよ』というのが正直な感想でした」
そう振り返るのは、東京・新宿から車で西に約190キロ離れた諏訪湖(長野県)のほとりにある「RAKO華乃井ホテル」の小平幸治さん。信州屈指の工業地帯で、コロナ前は出張にきたビジネスパーソンの利用が多かった。
小平さんは、富士さんらと初めて会った日のことを鮮明に覚えている。
「カタログや名刺を持ってきて、プランを提案する営業とはまったく違う攻め方でくるんです。夏に複数人で来ていただきましたが、一人ジャージーの人がいたりして(笑)。ただ、話してみると、頭の中でちゃんとプランが描かれているし、さまざまなチャレンジをしていることがわかりました」
オーテルを導入して効果がなければ、やめればいい──小平さんはそう思って参加した。だが、予想外のことが起きた。
「意外と予約が入ってきたんですよ」
ニーズがあるならば、と諏訪湖が一望できるテラスにコンセント付きのワークスペースを作るなど、ホテル側もワーケーション対応に力を入れ始めた。小平さんいわく、今やオーテルは「ホテル業界で知らない人はいないんじゃないかってくらいの存在感」だという。
予約通知や会計ページがわかりづらいとなれば、その度にヒアリングして改善する。これからも、提携ホテル一つひとつと二人三脚で走り続ける。
コロナで「暇」きっかけ
コロナ禍は社会人だけでなく、学生の生活や考え方にも大きな影響を及ぼした。それまで描いていた仕事への考え方や働き方において、踏襲する前例が通じなくなったといっても過言ではない。言い換えれば、先の富士さんしかり、発想の転換しだいで、これまでにない一歩を踏み出せる世代でもあった。