学生生活が大きく制限されるなかでの在学中の起業も、コロナ禍のZ世代ならではの転換力。近畿大学農学部4年生の西奈槻さん(22)も、その一人だ。
近鉄奈良駅から、歩いて約11分。町家が並ぶ住宅街の路地裏に、小さなラーメン店がある。
「すするか、すすらんか。」
そんな一風変わった店名は、店の代表である西さんの口癖「やるか、やらんか」から名付けた。コロナ禍の20年10月にオープンして以来、SNSを中心に話題を呼んでいる。
看板メニューの「麻婆豆腐ラーメン」は、豆板醤や甜麺醤(テンメンジャン)、唐辛子など7種の調味料から作るこだわりの一杯。ラーメン好きが高じて店を始めたのかと西さんに聞けば、
「コロナで暇になったんで、ちょっと何かしたいと思って」
と、ラフな答えが返ってきた。
「何をするか探すために、インスタグラムやフェイスブックで経営者の方にメッセージを送りました。最初に連絡したのは、よく食べに行く飲食店のオーナーさん。店を10店舗くらい経営している人で、話を聞いてみたいと思ったんです」
やりたいことは決まっていないが、何かがしたい。その思いでメッセージを送り続けた。そして3人目に出会ったのが、ラーメン屋の場所を貸してくれることになる大家さんだった。
「経営者になりたいとか、そんなことは話しませんでした。でも、面白いことをしようとする若者を珍しがって応援してくれたのかもしれません」
“修業”はユーチューブ
話はトントン拍子に進み、2年限定で場所を貸してくれることになる。だが、何をするかは決まっていない。そんなとき、「宅飲み」で麻婆豆腐をよく作ってくれた友達の顔が浮かんだ。
「お前の麻婆で店やらへん?」
思い立ったら即行動。その日のうちに、友人に電話をかけていた。
麻婆豆腐だけで勝負するのは厳しいからと、ラーメンと組み合わせることにした。でも、西さんも友人もラーメンは作ったことがない。どうやって修業したのかというと、
「全部ユーチューブです。料理家の陳建一さんの動画を見て、『これちゃうな、あれちゃうん』みたいな感じでやっていました」
と振り返る。大家さんに話をしたのが、20年9月9日。その勢いのまま友達に電話をかけまくって、翌日には店のDIYを始める。無我夢中で動き、同年10月3日に店をオープン。2日間で約200人が来店した。