安倍晋三元首相(左)や高市早苗政調会長ら保守派への配慮からリベラル色を抑えてきたが、これからどう対応するのかも注目される
安倍晋三元首相(左)や高市早苗政調会長ら保守派への配慮からリベラル色を抑えてきたが、これからどう対応するのかも注目される

 中国との関係では、林芳正外相が訪中の要請が来ていることを明らかにすると、保守派が反発。来年2月の北京冬季五輪についても、米国などで政治的ボイコットが検討されている中で、自民党の保守派は日本もボイコットに踏み切るよう要求する構えだ。岸田首相がボイコットを決断すれば、米国や自民党保守派は評価するだろうが、中国の反発は必至だ。日本との経済関係にも影響を及ぼす可能性がある。

 第3の難題は、泉健太代表の下で再スタートを切る立憲民主党の攻勢である。同党は来夏の参院選に向けて態勢を立て直し、1月からの通常国会では岸田首相に本格的な論戦を挑む。自民党で右派・タカ派の色彩が強かった安倍、菅義偉両氏に対して、立憲内で左派色が強かった枝野幸男氏が対抗する構図が続いてきた。これに対し、自民党内のハト派・リベラル派の岸田氏に立憲の中道派である泉代表が挑むという構図に変わった。政策面で似通った者同士の「接近戦」の論争が繰り広げられるかもしれない。

 さらに泉代表は47歳の若さ。岸田氏と誕生日が同じ(7月29日)で17歳違いだ。世代交代の流れが加速するだろう。その場合、安倍元首相や麻生太郎副総裁ら自民党内のベテラン政治家の影響力が弱まり、岸田政権の足元をぐらつかせるかもしれない。

■ドラマより静かな議論

 そうした中で、岸田氏対泉氏という構図をめぐって、私には懸念がある。理念や政策が近い岸田氏と泉氏との論争はメディアにとって「退屈」と映りかねないのだ。

 日本のメディア、とりわけテレビは、小泉純一郎首相の時から「劇場型政治」を好む傾向にある。小泉氏は郵政民営化を推し進め、衆院解散を強行。「郵政が民営化すれば、社会保障も外交も良くなる」という根拠不明のスローガンも掲げた。テレビは「小泉劇場」を大きく取り上げたが、郵政民営化の内容やその影響などを吟味する機会は少なかった。解散・総選挙でも、郵政民営化法案に反対した自民党候補者に対して小泉氏側が擁立した「刺客」との一騎打ちという「ドラマ」ばかりが大きく取り上げられた。

 小泉政権の後も、自民党の下野・民主党政権の発足を経て、安倍「一強」政治などが続いたが、テレビの関心は、落ち着いた政策論争よりも政局の「活劇」に向かいがちだ。対決型政治に慣れてきたテレビが、岸田氏対泉氏の政策論争をじっくりと伝えることができるだろうか。

 コロナ対策や経済の再生、米中対立の中での日本外交といった難しい課題が山積する。岸田首相が泉代表らと静かな議論を重ねながら課題を解決していけるかどうか。まさに岸田氏の「聞く力」が試されている。(政治ジャーナリスト・星浩)

AERA 2021年12月13日号より抜粋