■藤野さんが引退したらひふみはどうなる
話が弾んだところで、財布を見せてもらった。薄い長財布に現金10万円。アメリカン・エキスプレスのブラックカード、運転免許証、銀行のキャッシュカード。
「経営者は長財布なんて話もありますが、二つ折り財布を使っていた頃も会社はうまくいっていました。財布の形は何でもいい」
藤野さんという異才が、ひふみ投信をここまで育てた。そこで聞きたい。藤野さんが遠い将来、引退したらどうなるのだろう。何十年も長期保有をするつもりで投信を買った人には気になる。
「僕は人の目利きには自信があります。たとえば……見て、レオスの名刺のロゴ。東京五輪の聖火台を手がけたnendoに頼んだんですよ。佐藤オオキさん(代表)のとこ。当時はまだ大卒の兄ちゃん二人の会社で、このロゴは彼らの初期の作品だと思います。ロゴとか起業関連のいろいろを含めて、100万円で受けてくれた」
nendoといえば、日本でも指折りのデザイン会社。その金額では、今はとても無理だろう。
「僕はデザインのよしあしはわからないけど、約20年前に佐藤オオキさんが、なんだか天才だとわかった。レオスの僕以外のファンドマネジャーも、他部署の人間も、キレッキレの人しかいません。僕以上に才能がある。だから、ひふみの今後が楽しみなんです」
◎藤野英人(ふじの・ひでと)/1966年、富山県出身。1990年、早稲田大学法学部卒業後に野村投資顧問(現野村アセットマネジメント)、ジャーディンフレミング投資顧問(現JPモルガン・アセット・マネジメント)、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントを経て、2003年にレオス・キャピタルワークスを創業。現在、代表取締役会長兼社長、CIO(最高情報責任者)、「ひふみ投信」シリーズのファンドマネジャー。社名の「レオス」は古代ギリシャ語で「流れ」という意味。日本にある人財・資本・知恵・技術など多くの資産(キャピタル)の「流れ」をつくる工房(ワークス)。神奈川県・逗子のご自宅で取材させていただいたが、学生時代からのピアノはかなりの腕前だった
(文/大場宏明、綾小路麗香)
※『AERA Money 2021秋号』から抜粋