リビングには、8歳の長男と5歳の次男が近所の公園や川で捕まえたカブトムシ、水魚などが入った水槽が並び、カーテンにはセミの抜け殻がとまったまま。そして壁一面に、子どもたちが描いた絵や作文が大事そうに貼られていた。

近所の公園は緑豊か。息子たちはカエルやトカゲの姿に大喜び。移住して良かったと思う瞬間だ(写真=工藤隆太郎)
近所の公園は緑豊か。息子たちはカエルやトカゲの姿に大喜び。移住して良かったと思う瞬間だ(写真=工藤隆太郎)

■育休の取得率は100% 制度と風土両方を整える

 家族の空間は、子ども中心に時間が刻まれてきたことを物語っている。息子たちがふざけ合っている姿に目を細めながら矢本が言う。

「大阪に引っ越してきてから、息子たちの表情が変わりました。自然の中で遊び回り、友達も増えた。これまで親の都合で子どもたちに窮屈な思いをさせてしまい、本当に申し訳なかったなあ、と」

 東京に住んでいた頃は、マンションの階下から騒音などの苦情を貰い、解決策が見いだせないまま、家族全員、精神的に疲弊してしまっていた。

 昨年、コロナから子どもを守るため一時的に青森の実家に引っ越したところ、子どもたちが弾けたように活動的になった。そんな姿を目の当たりにした矢本は、仕事という親の都合で子どもたちの成長の芽を摘んでしまっていたと猛省。東京に日帰りが可能で、自然があり教育環境が整っているところを探し大阪の北摂地区にその地を求めた。

 矢本が10Xを起業したのは17年。起業家は寝食を忘れて事業に邁進(まいしん)するイメージがあったが、矢本は彼らと一線を画す。

「そもそも、家庭と仕事を分けて考えることが僕には疑問。仕事をしながら家事や育児が出来るし、子育てをしながらでも仕事のアイデアは浮かぶ。子育てや家事をパートナーに任せるという発想は僕にはありません」

 矢本は起業する前に勤務していた組織で、育休をしっかり取った。国に認められた制度だからだ。

 その一方、日本ではまだ男性の育休取得率は低い。政府は「2025年までに男性の育休取得率30%」を掲げるが、厚生労働省が発表した21年度雇用均等基本調査によると、取得率はまだ13.97%。取得期間は5日未満が25%、5日~2週間未満が26.5%と、半数以上が2週間未満だ。

暮らしとモノ班 for promotion
防災対策グッズを備えてますか?Amazon スマイルSALEでお得に準備(9/4(水)まで)
次のページ