メルカリ広報を経て10Xに転職した広報担当役員の中澤理香(34)は、矢本の日々の言動から仕事より自分の人生を優先させることを学んだ。

「私はこれまで仕事人間でした。でも矢本さんの言動に接して、自分の人生を優先していいと思えるようになった。だから今、ストレスフリーです」

引っ越してテレワーク用の部屋も確保。ここからポッドキャストも配信。社員にもテレワークを推奨し機器購入費を援助。出社時の交通費も10万円まで支給(写真=工藤隆太郎)
引っ越してテレワーク用の部屋も確保。ここからポッドキャストも配信。社員にもテレワークを推奨し機器購入費を援助。出社時の交通費も10万円まで支給(写真=工藤隆太郎)

■大学院1年の時に被災 自分の非力さを痛感する

 10Xは未上場のため、資金投資という形で成長を支えているのが、米国ベンチャーキャピタルのDCMベンチャーズだ。同社プリンシパルの原健一郎(40)は英国や中国、日本で多くの起業家と面談してきたが、投資したくなる企業は100社に1~2社ぐらいしかないという。

「10Xに投資を決めた理由は二つ。一つは矢本さんの人柄。地頭がいいことに加え、物事をシンプルに考え、学習能力が高く、強い信念がある。日本にはプロダクトマネージャー出身の起業家が少ないので、ビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグのようなロールモデルになれると思った。第二は事業内容。日本が遅れている生鮮食品のEC化という社会課題を解決しようとしている。ネットスーパーが普及すれば、日本の小売業界が大きく変わる」

 経済産業省が22年8月に公開したデータによると、食品・飲料・酒類の市場規模は2兆5199億円だが、EC化率はたったの3.77%。矢本の目の前には大きな海原が広がっている。

 矢本が遠くを見やるように言う。

「僕は震災でマインドセットされたんです」

(文中敬称略)

(文・吉井妙子)

※記事の続きはAERA 2022年11月7日号でご覧いただけます。

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