息子さんは本当に捨ててほしいわけでもありません。こうした言葉は強烈な自己否定感ゆえに出る言葉です。小さな成功体験を積ませて自己肯定感を育むつもりが、なぜこうなってしまったのか。それは部分的な登校などが「小さな成功体験」だと思っていたのが親だけだったからです。メッセージの受け取り手である子ども本人は、それらのことを「失敗体験」だと思っていたのでしょう。1時間だけ学校へ行けても、本人は「ほかの時間は行けなかった」と思ってしまう。宿題ができても「学校へは行けなかった」と思ってしまう。つまり、息子さんにとって「部分的な成功」を強調されることは、「それ以外はできなかったこと」を思い知らされることだったのです。「みんなにはできて、自分にはできないということを確認させてしまう日々だった」とお母さんはふり返っています。

「僕を捨てて」という言葉にハッとしたお母さんは登校をすっぱり諦めます。その後、意識したことのひとつが「雑談」でした。親子で何気ない会話をすると、暗かった息子がイキイキとしゃべり始めたそうです。

 不登校関係者のあいだでは、以前から雑談の効果が語られていました。子どもの話を否定せずに聞いたり、子どもが好きなことを聞いてみたりする。それらの積み重ねで子どもが元気になり、進学など次のステップにもつながりやすくなる、と。ホメる子育てを否定する気はありませんが、自己否定感を感じやすいときには注意が必要です。

写真はイメージです(Getty
 Images)
写真はイメージです(Getty  Images)

「誰かと雑談がしたい」「話を聞いてほしい」と思う子は不登校だけではありません。子どもの電話相談「チャイルドライン」には雑談を求める電話もよくかかってきます。その数なんと年間約5000件(2021チャイルドライン年次報告)。ひろしまチャイルドライン理事長・上野和子さんから、雑談のようすを聞いてきました。

「私が受ける雑談は、1日の出来事を一方的に話す感じですね。朝、起きてから学校へ行き、帰ってくるまでに何があったのかを時系列で話してくる。時間にして数分程度です」

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