松村:初めてのアフレコだったので、事前にボイストレーニングに通いました。あとはビデオコンテのようなものがあったんですが、テープが焼き切れるぐらいの勢いで見ました。声の演技は普段の演技とは全然違い、経験したことのない工程がいっぱいありましたね。
原:まず何をどう練習したらいいかがわからない。とにかく不安でいっぱいでした。台本がとんでもない量だったじゃないですか。分厚い台本が2冊届いて。そこにセリフの秒数を全部振り、できれば現場でセリフのことを考えたくないから、ある程度頭に入れていきたい。そう思ったら全然時間がない(笑)。
松村:声のお芝居は、声だけで表情と感情を出さないといけないので、心で思っているものよりもさらに大きく表現していく必要がありました。そこが難しい。その上、アニメーションは絵という視覚情報もあります。ラジオ番組やオーディオドラマだと視覚情報はまったくないので、自分の声、自分のお芝居でいいけれど、視覚情報が別で用意されているから、そのイメージとタイミングにも合わせなくてはいけない。そこの難しさは想像してはいましたが、自分で演じて改めて再確認しました。
■アフレコの難しさ
原:私は新海監督の「君の名は。」がすごく好きで、「天気の子」も見ていました。(それぞれのヒロインを演じた)上白石萌音さんや森七菜さんのような、湧き水みたいな透明感のある、高くて綺麗(きれい)な声にすごく憧れがあったんです。それで無意識のうちにそこに寄せようとしていました。アフレコに入った時に、「もっと(声のトーンを)低くして」と言われたのですが、直すまでに時間がかかってしまいました。アフレコは初めてだから、現場では言われたことを忠実にきちんとできるように、自分の中で勝手に作ったり決めきらないように心がけました。でも、その塩梅が難しかったです。
松村:僕が難しかったのが、笑いながら話すというお芝居。ケラケラ笑いながら話せばいいのかというと、それだと言葉がわからなくなってしまう。しかも草太は大きく笑うようなキャラクターではない。それに、笑うシーンが10回出てきたとして、全部同じように笑いながら話しているかと言えばそうではないし、お芝居の表現としても同じになってしまってはいけない。その辺りはアフレコが始まってからどんどんわかってきたことです。すごく奥の深い世界だなと思いました。