AERAの将棋連載「棋承転結」では、当代を代表する人気棋士らが月替わりで登場します。毎回一つのテーマについて語ってもらい、棋士たちの発想の秘密や思考法のヒントを探ります。渡辺明三冠(名人、棋王、王将)、森内俊之九段(十八世名人資格者)、「初代女流名人」の蛸島彰子女流六段らに続く10人目は、「将棋界の名伯楽」の石田和雄九段です。発売中のAERA 2022年1月3-10日合併号に掲載したインタビューのテーマは「私の楽しみ」。
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「藤井聡太(竜王、19)知ってる?」
日曜午前、柏将棋センター(千葉県柏市)。多くの子どもたちでにぎわう教室。通い始めてきた6歳の少年に、石田和雄九段はそう尋ねた。少年はもちろん、といった感じでうなずく。
「そりゃそうだ。ここに来ている子で藤井聡太を知らない子はいない。佐々木勇気(七段、27)は知ってる?」
今度の質問には、少年は首を横に振った。
「うーん、そうか……」
石田はいかにも残念、という感じで苦笑した。
「高見泰地(七段、28)は知ってる? そう、知ってるか。高見はよくテレビに出ているからなあ」
そう言って相好を崩す石田は現在、将棋界の名伯楽として知られている。門下からは勝又清和七段(52)、佐々木七段、高見七段、門倉啓太五段(34)、渡辺大夢六段(33)、加藤結李愛女流初段(18)と多くのプロが輩出した。
「勇気はあまり取材とか受けないから、知られていないんだな。6歳の子が勇気を知らないのも無理はないよ。藤井君の連勝を止めたのはもう4年前だからね」
今から4年前の2017年。柏将棋センターのウェブページで連載されている「石田九段の今週のつぶやき」には次のように記されていた。
「藤井聡太四段、29連勝成る。(中略)彼はまぎれもなく天才です。さあ、こうなってくると誰が藤井君の連勝を止めるかに、将棋界のみならず、日本中の関心が集まっています。次の相手は、他ならぬ、私のまな弟子佐々木勇気五段。計ったように30連勝目に当たるとは何かの引き合わせなのでしょう」