世界のフィギュアスケーターが競うグランプリ(GP)シリーズが開幕した。初戦はスケートアメリカ(10月21~23日)。男子の新星・イリア・マリニンに注目が集まった。AERA 2022年11月7日号の記事を紹介する。
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米国で最も権威と伝統のあるフィギュアスケートクラブの一つ、「ボストンスケーティングクラブ」がその瞬間、悲鳴にも似た大歓声に包まれた。
男子ショートプログラム(SP)4位と出遅れていたイリア・マリニン(米国、17)のフリー。
冒頭に挑んだのは、9月のUSインターナショナル・クラシックで自身が世界で初めて成功させたクワッドアクセル(4回転半)ジャンプだった。長い滞空時間と驚くほどの回転速度で見事に成功してみせた。
その後もトーループ、ルッツ、サルコーと、次々に4回転を成功。その度に歓声を浴びる。ホームの観客に背中を押されるように、あっさりと4分のフリーを終えて、初出場のGPシリーズで初優勝を成し遂げた。
クワッドアクセルは本番では回避するのではないか──。
直前の6分間練習でも成功していなかっただけに、記者の多くがそう思っていたのではないだろうか。
■迷いのない精神状態
だが、マリニンの心の中は違っていた。
「演技に向かうため氷上に足を踏み入れた時、『やるぞ』と最終的に決心しました。演技に入るポジションにつくまで『やってやる』という決心に揺らぎはありませんでした。迷いのない精神状態が良かったんだと思います。決断に従って実行し、成功させることができました」
記者会見でマリニンは、あどけなさが残る笑顔で振り返った。
驚くべきはその質の高さだ。4回転半を初成功させた時は1.00だった出来栄え点(GOE)は今大会、4.11を記録した。この短期間で、最高難度のジャンプを完全に自分のものにした証明でもある。
一方、マリニンの衝撃に負けないくらいの存在感を見せたのが、日本の17歳、三浦佳生(かお)だ。
シニア1年目で初めてのGPシリーズ。豪快な4回転を武器にSPでは首位に立った。