串田和美(撮影/写真映像部・高野楓菜)
串田和美(撮影/写真映像部・高野楓菜)

「自分の中で、再演したい作品はあまりないけれど、これはやりたいとずっと思ってる」と加藤さんが話すのを聞いて、串田さんも自分がこの博士の役を、いつか演じたいと思っていたことを伝えた。そうして、現在80歳の串田さんの「博士」を、29歳の加藤さんが演出する舞台「博士の愛した数式」が上演されることになったのである。

「よく取材で、自分よりずっと年下の演出家の演出を受けることをどう思うか聞かれるんですが、世代の違いは、まったく意識しませんね。経験を積むことは、もちろんいい面もあるけど、それによって駄目になっていくこともたくさんあります。経験を積んだつもりで常識にとらわれてしまっては、新しい発想もできない。もちろんそれによって失敗してしまうこともあるけれど、恐れずにどんどん失敗すればいいんです。失敗を恐れてチャレンジしなくなったら、人間おしまいですよ。失敗したら、もう一回失敗すればいいんです。ふふふ」

「大体、何が失敗かなんて誰にもわからないしね」と目をくりくりさせて、記憶の中から、幼き日のエピソードを引っ張り出した。

「小学生の夏休みの宿題に工作があって、僕はお菓子の箱に調味料のキャップなんかをくっつけて、箸をアンテナにしたりして作った空想のラジオを持っていったの。そしたら、クラスメートの中に3人ぐらい、本格的に真空管なんかを並べて、ちゃんと聞こえる本物のラジオを作ってきた生徒がいて、すごく恥ずかしかった。でも、卒業して何年も経って、クラス会をしたときに、誰かが、『串田くんのあのラジオ、今でも覚えてるよ。独創的ですごくよかった。最高だったよね』って言ってくれて。あのラジオが、クラスメートの記憶に残っていたと思うとうれしくなった。そのときはもう芝居をやっていたので、どんな形でも記憶に残る何かを作れたらそれで十分だなぁ、なんて思いました」

串田和美(撮影/写真映像部・高野楓菜)
串田和美(撮影/写真映像部・高野楓菜)

(菊地陽子 構成/長沢明)

※記事後編>>「串田和美が明かす森繁久彌の晩年『死んだふりしてエッチな話を僕の耳元で囁く』」はコチラ

週刊朝日  2023年2月3日号より抜粋

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