だが、米国経済が悪化したことで、その役割を放棄し、日本に米国を補強するための防衛力と経済力を求めるようになったのである。
防衛力の強化について、岸田文雄首相は防衛費倍増を言い切り、敵基地攻撃能力を反撃能力と言い換えたが、つまりは専守防衛の枠を大きくはみ出す決意を示したのである。米国からの強い要請があったのに違いない。
そして、経済力だ。米国は従来、アジアや中東、南米、アフリカなどの貧しい国々を援助してきたが、経済の悪化でそれができなくなってきた。自国経済が苦しい日本がこれらの国を援助するのも、米国のプライドを守るためではないか。
日米同盟を持続させるためには、こうした米国の要請に応じなければならない。そのためにはまず自国経済の活性化が必要だ。
かつてソニー創業者の盛田昭夫氏は私に、「世界のどの市場にもないものを開発する。そうすれば付加価値がつき、経済が成長する」と言っていた。だが、挑戦には失敗がつきものである。日本が大不況になった90年以降、日本の経営者たちは失敗を恐れて挑戦をあきらめ、他国の製品をより安く作ることに専念した。だから成長もせず、賃金も上がらなくなった。
今、政治家も経営者も根底から意識改革を断行すべきである。
田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数
※週刊朝日 2023年2月3日号