■情報開示も議論が必要
とはいえ、不倫はどうか。アマゾンのジェフ・ベゾス氏やテスラのイーロン・マスク氏は不倫報道後もCEOを辞任していない。山井氏のケースは「オーバーコンプライアンス(過剰法令順守)」に当たらないのか。
「世間の反応がSNSを通じてダイレクトに拡散されるため、企業側がリスクを恐れるあまり、先回りして無難な選択をする傾向も否めません」
と増沢さん。こう続ける。
「山井さんのケースはネットの影響が大きいと思います。今は誰もがSNSなどで意見を発信できるようになり、社会的地位や影響力の高い人の足を引っ張ってやろう、という妬(ねた)みからくる欲望を満たすのにネットは最適です。不倫に寛容かどうかという文化の違いがネット空間を通じて顕在化することは無視できません」
ネット被害対策に詳しいITコンサル「ソルナ」の大月美里COOは「コンプライアンスに関わる内容の場合、正義感からもネット上で反応されやすい」と指摘。山井氏に関しては「プライベートにかかわる問題をここまでオープンにする必要があったのか。生まれてくるお子さんの人権を守るためにも報道に配慮を求めることや、どこまで情報開示するかについて社外の専門家を入れて慎重に議論すべきだったと思います」と話す。
実際、山井氏への誹謗(ひぼう)中傷はネット上で相次ぎ、同社は法的措置を講じる考えを示している。ただ、これについても火に油を注いでしまうリスクがある、と大月さんは懸念する。
「身の危険を感じるほどの中傷が相次いだため法的措置も検討せざるを得ない、といった背景説明にもっと力点をおくべきでした。対立ではなく、丁寧に世間の理解を求めることで、自然と収まっていく形が理想的です」
(編集部・渡辺豪)
※AERA 2022年10月10-17日合併号