女性に暴行して、既婚者と不倫し妊娠して……ビジネスの「場外」での行動で企業トップの辞任が相次いでいる。「辞任の線引き」はどこにあるのか。AERA 2022年10月10-17日合併号の記事を紹介する。
【写真】女性への暴行が原因でエネオスHDの会長・グループCEOを辞任した杉森務氏
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「エネオスHD」は9月21日、会長・グループCEOを務めていた杉森務氏(66)の辞任理由が性暴力だったと明らかにした。高級クラブでホステスの女性に暴行しケガをさせていたという。
企業トップの私的行為を理由にした辞任について、「法律違反はアウト」と話すのは戦略人事コンサルタントの増沢隆太・東北大学特任教授だ。
「暴力や詐欺、違法薬物といった刑事責任を問われるケースは一発アウト。謝罪では済まされず、即辞任が相応です」
■位置エネルギーが影響
一方、微妙なのがハラスメントや不倫だ。アウトドアメーカー「スノーピーク」も同日、山井梨沙社長が辞任したと発表した。既婚男性との交際と妊娠を理由に本人から辞任の申し出があったという。山井氏は2020年に32歳で3代目社長に就任。祖父が創業者で、会長の父が2代目だった。
このケースは山井氏個人の「位置エネルギー」の高さが要因と増沢さんは指摘する。
「山井さんはテレビ出演や本の執筆などを通じ、広告塔としての役割を担い、位置エネルギーを高めたことが、辞任圧力を高めたといえます」
年々高まる企業のコンプライアンス。増沢さんは「時代」「法律」「価値観」の三つの変化に留意する必要があると言う。
「昭和の時代だったら問題にならなかったことも今はアウト。その背景には、法律と価値観の変化があります」
例えば、パワハラに関しては19年の法改正で雇用管理上の責任が企業に義務付けられ、国が「優越的な関係に基づく」「身体・精神的苦痛を与える」などパワハラの要素を明文化している。法整備の背景には社会の価値観の変化がある。リスクが潜在するのは変化について来られないトップを抱える企業だ。
「トップに対しては『気を付けろ』と注進する人も少ない。企業で偉くなればなるほどリスキーだということを肝に銘じておく必要があります」(増沢さん)