西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)さん。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「86歳まで医師でいられる理由」。

*  *  *

【現役】ポイント

(1)歳をとっても現役でやれるのはなぜかと聞かれる

(2)「医師が患者さんに寄り添うこと」こそが医療の本質

(3)患者さんに寄り添うには歳をとっていた方がいい

 私は86歳になった現在も現役の医師です。休みの日以外は、毎日、診療を続けています。それを見た人に「そんな歳まで、よく現役でやっていられますね。なぜですか」と聞かれることがあります。そこで今回は、それに対する答えをお話ししたいと思います。

 まず医療の本質についての説明が必要です。私はホリスティック医学を追求していくことで、「医師が患者さんに寄り添うこと」こそが医療の本質だと思うようになりました。ホリスティック医学では患者さんを臓器別に診るのではなく、人間をまるごととらえようとします。そのときに次の三つの側面からアプローチします。「からだ」「こころ」「いのち」です。患者さんに寄り添うときも、この三つの側面が入り口になります。

 (1)まずは「からだに寄り添う」ということです。それは患者さんのからだの状態を正確に把握するということでもあります。視診、問診といった診察の技術が問われます。これは経験によるところが大きいのです。ですから、医師が歳を重ねた方が有利になります。

 といっても患者さんを診るには体力がいります。足腰が立たないようでは、話になりません。ですから、私は筋力の衰えや骨の脆弱化には注意を払っています。牛肉を食べるようにしたり、昆布だしを飲んでカルシウムを補給したりしているのもそのひとつです。

 (2)次は「こころに寄り添う」こと。人は一人でこの世にやってきて、数十年後に再び一人であの世に帰っていく孤独な旅人です。旅人は旅情を抱いて生きています。そして、その根底には悲しみがあります。この悲しみに対する理解が必要です。ましてや患者さんは、病を抱えて、医師の目の前にやってくるのです。そんな患者さんがこころの底に抱えている生きる悲しみを心底、敬うことこそ、患者さんのこころに寄り添うことだと私は思っています。生きる悲しみを本当に知るためには、やはり医師自身が、しっかり歳を重ねていくことが必要になります。

著者プロフィールを見る
帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

帯津良一の記事一覧はこちら
次のページ