番組にはリスナーから日々1千通、2千通に上るメッセージが届く。ピストンさんはそこから世の中の動きやリスナーの思いを敏感に感じ取ってきた。
東京都板橋区でお好み焼き店「みりおんばんぶー」を営む佐々木拓・麻子夫妻は、仕込みをしながら番組を聴いて17年になる。投稿で番組とつながり、東日本大震災、麻子さんの病気、コロナと、危機に瀕するたびにピストンさんに励まされて乗り越えてきた。
番組での紹介でリスナーが来店するようになり、18日には17人が集まってリスナー会議が開催され、「最後まで番組を盛り上げていきましょう!」と乾杯した。参加したラジオネーム「Mr.ハラキリ」さんは多い日には50通ものメッセージを投稿し、10年間で4670回以上、番組で取り上げられた。
■リスナーに寄り添う
やはりリスナーにはおなじみの「野球道」さんは仕事中にもネタを考え、生活が番組中心に回っているほど。他の番組より採用のハードルが高いだけに読まれたときの喜びは大きい。
「ピストンさんは一瞬のうちに順番を入れ替えたり、セリフ調にしたりして、より面白く味付けして読んでくれる。そのすごさは投稿した本人にしかわからないんですよ」
20代の「右手にコーラ」さんはトラック運転手をしていた5年前に番組を聴き始めた。毎日30通を投稿するが、採用されなくても番組を盛り上げる一助になればいいと言う。
「ピストンさんには恩があるんです。電波越しにDJの面白さを教えてもらって2年前に機材を買って練習を始めました。今はクラブでDJをしています」
ナビゲーターのトーク力は非常時に試される。東日本大震災後の不安な日々の中、いつものピストンさんの声にホッとした人は多かった。リスナーの気持ちに寄り添った情報発信は高く評価され、ギャラクシー賞ラジオ部門DJパーソナリティ賞を受賞している。
コロナで世の中が硬直したときも話題をそらさず、周りに感染した人はいますか、療養中のあなたに電話しますよ、と呼び掛けた。
「僕の中でラジオの重要な部分はやはりコミュニケーションなんです。みんなで同じ気持ちを味わって気が楽になったり、勉強になったり。共有と拡散です」
■「今、すっごい自由」
今後、やりたいことの一つがSNS、YouTubeでの交流だ。たとえば、悩みや相談事をみんなで考える。生きている上で抱えているものを軽くしたり、やりたいことを我慢しない生き方を探すヒントになればいい。
番組終了後の同時間帯にはタカノシンヤさんと藤原麻里菜さんによる新番組「GRAND MARQUEE」が始まるが、ピストンさんの声は日曜夜7時の「DRIVE TO THE FUTURE」で引き続き聴くことができるし、YouTube配信も始めている。
「長くやっていて一番の大敵は自分に飽きちゃうことなんです。番組終了が決まってから急に楽しくなっちゃった。今まで番組継続に悪影響があるものは自分の中でアウトと縛ってきたけど、もう関係ないもんね。今、すっごい自由ですから」
28日は秀島史香さんと2人で進行する。29日の最終日に何が起きるかはわからない。(ライター・仲宇佐ゆり)
※AERA 2022年10月3日号