東浩紀/批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役
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 批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。

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「れいわローテーション」が話題を呼んでいる。16日にれいわ新選組の山本太郎代表が発表した、参議院議員の党内交代制のことだ。

 れいわは昨年の参院選比例代表で2議席を獲得したが、ひとりが議員を辞職した。本来なら名簿3位の候補が繰り上がることになる。ところがれいわは、1年ごとに辞職と繰り上げ当選を繰り返すことで、残り5年半の任期のあいだ、名簿3位から7位までの候補者を1年ずつ国会に送り込むと発表したのである。

 れいわの参院選での得票数は約232万で、うち200万以上は政党名の投票だった。大部分は個別候補でなく政党を支持したのだから、交代制で問題ないとの声も聞こえる。

 けれどもこの構想には大きな問題がある。それは制度の盲点を突いた奇策であることにとどまらない。代議制の精神に抵触している。

 現行の選挙はあくまでも人を選ぶことを想定している。だから任期や歳費もある。党の命令のまま辞職するのが前提という交代制の構想は、議員に自由意思を認めていない。れいわという党自体も成立からまだ4年弱である。5年のあいだになにが起こるかわからない。途中で党内の状況が変わり、離党され辞職を拒まれたらどうするつもりなのか。

 実験的な政治思想では、議員は意思をもった人間である必要はない、有権者の意思を集めるアバターのようなものであればよいという議論もある。日本では経済学者の成田悠輔氏が似た主張をしている。けれども、れいわはそのようなラジカルな思想をもって交代制を打ち出したわけでもない。たんに乱暴というべきだ。

 山本太郎氏は奇策の連発で知られる政治家である。政界入りから10年、その戦略で台風の目であり続けてきた。なかには重要な結果につながったものもあった。2019年の参院選で重度障害者の国会参加の道が開かれたのはそのひとつだ。

 とはいえ策士はときに策に溺れる。筆者にはこの構想が支持拡大につながるとは思えない。与党の低迷が著しい時期だからこそ、野党には堅実な運営を求めたい。

◎東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数

AERA 2023年1月30日号