
歴史好きの万城目さんは吸血鬼の歴史をひもとく。彼らは迫害されている絶滅危惧種であり、人間社会に遠慮しながら生きている。日本の吸血鬼第一号も登場し、弓子は大物吸血鬼が集う館に乗り込む。
いつもは長編を仕上げると2カ月ほど休んで旅行などを楽しむが、今回は前作『ヒトコブラクダ層ぜっと』を3年半かけて書き終えた4日後に新作執筆が始まった。1週間のうち5、6日はこの小説を書き、あと1日はエッセー執筆。夕方5時から朝の5時まで机に向かう日々が続いた。
「何でこんなに働いてるんだろうと思っていました。でも、ストレスが掛かっている時のほうがいいものが書ける。生活の満足度と作品の質は反比例すると思います。沖縄の青い海を見ながらのんびり書いても小説は面白くならないんですよ」
ハリー・ポッターのような完全に異世界の話より、「日常生活の中にちょっと変なやつがいる話が好き」という万城目さん。弓子もQも変なやつだが、二人の間に生まれる感情は本物だ。(ライター・仲宇佐ゆり)
※AERA 2022年10月3日号