
AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
『あの子とQ』は、万城目学さんの著書。人間社会に溶け込んで高校に通う吸血鬼の弓子のもとに、トゲトゲした形のQという物体が現れ、弓子を監視し始める。男女4人で海に行った弓子は事故にあい、吸血鬼と人間の間で究極の選択を迫られ、Qの正体を知ることに。青春と冒険を描いた長編小説。万城目さんに同書にかける思いを聞いた。
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吸血鬼の一族に生まれた弓子はもうすぐ17歳。人間社会に適応するための「脱・吸血鬼化」の儀式を控えたある日、謎の存在Qが現れ、弓子が人間の血を吸っていないか監視を始める。
万城目学さん(46)が高校生の女の子、しかも吸血鬼を主人公にしたのには理由がある。4年前に映像関連のプロジェクトに参加し、「少女と、その横にいる、この世のものではない存在」の物語を考えるよう依頼されたからだ。
「16、17歳の女の子が何を思い、何に悩んでいるのか僕にはわからない。でも吸血鬼にすれば学校での友人関係とか人間社会になじむ苦労とか考えられるかなと。小学生のとき妹がはまっていたアニメ『ときめきトゥナイト』の影響もあるかもしれません」
いくつかのプロットを提案したが、コロナの影響もあってプロジェクトは空中分解してしまう。没になった案を小説にしてはと編集者にすすめられ、「週刊新潮」に連載したのがこの作品だ。
「今までは弁当箱のサイズも中身も全部自分で決めていましたけど、今回はよそ様からのオーダーで始まりました。主人公の性別、年齢、準主役の在り方を自分で考えなかったのは初めてです。面白くなるのか懐疑的でしたが、望外の出来になりました」
ストーリー展開は理詰めで考える。主人公を監視する存在はなぜトゲトゲした形なのか、最後はトゲトゲがどうなるのか、ここには自分の未来と友だちの命を天秤にかける厳しい状況が必要というふうに少しずつ組み立てていく。
吸血鬼については古今東西の映画や本を調べた。
「最近は血の誘惑を抗い難いものとして描く作品が多いんですよ。人間の血を見たら意識が引っ張られて、もう自分には止められない。シリアスな描写が印象に残りました」