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 ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、逝去した英国・エリザベス女王について。

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 「Duty first, self second」という好きな言葉があります。2006年に製作された映画「The Queen」の中で、ヘレン・ミレン演じるエリザベス2世(英国のエリザベス女王)が呟く台詞です。「第一に務め。自分はその次」。

 女王自身が実際に口にしたものかどうかは定かではありませんが、1952年に弱冠25歳で即位して以来、イギリス(イングランド・ウェールズ・スコットランド・北アイルランド)を始め、世界各地に点在する英連邦王国の君主もしくは元首、さらにはイギリス国教会の首長として、統治・君臨し続けてきたエリザベス2世のモットーとも言える言葉であり、個人主義が尊重される今こそ、改めて労働や社会生活を遂行する時、我々も刻むべき精神だと、いつも胸に留めている言葉です。

 イギリスの紙幣や硬貨はもちろんのこと、カナダやオーストラリア、ニュージーランドといった国々の通貨にもその肖像が用いられ、多くの映画やドラマ作品にもなるなど、「世界でもっとも有名な女性」と形容されるエリザベス2世は、今年で英国歴代最長となる在位70年を迎えました。

 過去に約7年間、エリザベス2世の統治下であるイギリスに暮らし教育を受けた私にとって、「女王陛下」は我が国の天皇陛下と同様、今も暮らしの象徴であるとともに尊敬の念に堪えない非常に大きな存在です。

 私の知る限り、「喜怒哀楽をみだりに表に出さない」というのが長らくイギリス人の国民性でした。それは紛れもなくエリザベス2世の存在が深く影響していたと思われます。本音や感情を表さないことは、国を平常に保つ君主の威厳であり、世の中がどのような流れに向かおうと、「何もせず、そこに存在する」ことこそが最も大切な「務め」のひとつである。それが彼女の女王としての変わらぬ信念です。

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