一方で、80年代に入りダイアナ妃が皇太子妃となり、王室の「人気」がそれまで以上に世俗性を伴っていく中、君主の保守的な威厳は時に「旧態依然」としたものと見做される時もありました。ダイアナ妃だけに留まらず、英国王室は常にと言って良いほど賛否を引き起こす噂やスキャンダルに溢れてきました。しかし裏を返せば、それは国民や世間が王族に対して比較的カジュアルな関心や感情を抱いている証拠でもあり、そこには常に不動で不変の「女王」が鎮座しているという確信があるからこそとも言えます。

 21世紀の到来を経て、世の中の常識が劇的に変化した後も、彼女は「あるべき君主の姿」に固執するわけではありませんでした。皇太子の再婚を認め、ダイアナ妃が残した若き王子たちのアイデアやネット社会にアジャストした「モダナイズ(近代化)」にも柔軟に寄り添いました。女王の自然な表情や肉声が国民に届くようになればなるほど、彼女が纏い生きる威厳は、より無条件に尊いものとなっていった気がします。

 2日前にはにこやかに厳かに新首相を任命したばかりの女王。その崩御の公式発表1時間前、ロンドン・バッキンガム宮殿からの中継では、激しいにわか雨が。BBCの生放送では国歌が流れ、現在ウィンザー城に架かる虹を映しています。

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

週刊朝日  2022年9月23・30日合併号

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