西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、エース投手ならヤクルトの村上宗隆選手との勝負から逃げず、攻める姿勢が大切だと指摘する。
* * *
ヤクルトの村上宗隆が王貞治さんの55本塁打を超えるのか、そして22歳で最年少での三冠王を獲得できるのかが話題となっている。記録というものは、誰かが超えていくことで、新たな領域に突入し、さらにそれを超えようとするものが出てくる。野球界の発展には欠かせないことであるので、「55本」を超え、さらに2013年にバレンティンが記録した60本塁打も超えた上で、三冠王を獲得してもらいたい。
試合を見ていなくても、ニュースなどで、村上の全打席をダイジェストでやるようになっている。そこを見て思うのだが、インハイを生かしきれない投手が多い気がする。内角高めの球というものは、打者が一番、さばくことが難しい球である。打撃というのは、腕が伸びて力をボールに伝えられたら遠くへ飛んでいく。内角高めは一番腕を伸ばすことが難しい球である。野球の専門用語でいえば、バットを内から入れることが難しい。この打者にとっては難解なコースを突き切れない投手が多い気がする。
与死球の日本記録を持つ私が言うと、すぐに「死球」「ケンカ投法」となってしまうが、そうではない。例えば腕を伸ばして構える村上ならば、右ひじ部分のあたりを目標にして投げないと、厳しいコースになっていかない。バッターボックスのライン上を狙っても、少し甘く入ったらやられてしまう。今の投手がどこに目付けを行っているのか、少々疑問に感じる。
左投手は余計に難しいのかもしれない。すっぽ抜けたら頭に行ってしまうから。今や大スターとなった村上を故障させたらいけないとの思いも働くのかもしれない。ただ、そういう思いを少しでも持っているとしたら、もはや勝負にならない。先発投手なら、1試合の中で2、3回は村上と対戦することになるが、1、2球はインハイを入れないと、村上に気持ちのゆとりを与えてしまう。