で、作り終えたら皆で食卓を囲む。無論ド緊張。でもみなさんいちいち「おいしい!」と言ってくださるのだった。なるほど普段作る側の人たちだから、作る人の不安と期待がわかっておられるのですね。で、何事もかけ声は重要で、そんなふうに「おいしいおいしい」と言われると、どんなものも本当に美味しい気がしてきて幸せな気持ちで自分もどんどこ食べる。
で、フト思ったのだ。今の私たちまるで家族だ。作る人と食べる人が一緒に食卓を囲むと、血縁関係なんぞ全くなくともそのテーブルには間違いなく家族感が漂う。つまりはこんな活動をしていけば、生涯一人暮らしの私とて、いろんなところに家族ができるんじゃないだろうか?
そういえば子どもの頃、母に時折味見を頼まれたっけ。そうかあれも実はリスク管理をしていたんだなと思い至る。古く甘い思い出である。
◎稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
※AERA 2022年9月12日号