──指揮者も精神的に強くなければできない仕事だ。約100人の楽士の前に立ち、音楽を作っていかなければならない。

佐渡:指揮者は一段高い指揮台に立って指揮棒を持って指示するので、決して威張っているわけではないんだけど、上からしゃべっているように見えることもあるかもしれない。だけど、僕は一人一人の個性の良さを生かしてアンサンブルを作ります。楽団の能力を引き出すのが仕事なんです。

今年5月21日、新日本フィルのミュージック・アドヴァイザーとして、「トリフォニーホール&サントリーホール・シリーズ」公演で(photo 大窪道治)
今年5月21日、新日本フィルのミュージック・アドヴァイザーとして、「トリフォニーホール&サントリーホール・シリーズ」公演で(photo 大窪道治)

■ショパンで心落ち着く

──黙ってうなずく親方。指揮棒にも興味津々、特注の佐渡モデルが気に入った様子だ。

佐渡:持ち手がコルクなのは、滑らない材質だから。軸は木が好きなんだけれど、折れやすいのでカーボンにしたんだ。

親方:へえ、とても軽いね。僕は小学校の1、2年頃まで「指揮者っていいなあ、棒を振っていればお金をもらえる。楽な仕事だなあ」って思っていた(笑)。もちろん、そうではないってことがだんだんわかってくるんだけれど。

佐渡:ははは(笑)。 

親方:クラシックが好きで、車で移動するときによく聴いています。力士たちは飛行機や電車で移動するけど、僕は車を運転して移動する。1人の時間が少ないから、貴重なリラックスタイムです。何でも聴くけど、ショパンのピアノ曲なんかいいね、心が落ち着く。

──現役時代は、稽古はもとより、本場所、巡業とめまぐるしい日々で、故郷・ブルガリアのオーケストラ来日公演も聞きそびれた。帰郷の折に、わざわざオーストリアを経由して、ウィーン楽友協会の黄金のホールで演奏を聴いて帰ったこともあるという。

親方:佐渡さんと新日本フィルの演奏を生で聴きたいね。オーケストラに興味のある弟子と一緒に行きます。うちの北欧山は札幌出身で、高校までピアノを習っていて、ショパンが弾けるんですよ。そういう力士もいるんだから(笑)。

──北欧山は武蔵野音楽大学出身の先生にピアノを習っていたが、鳴戸部屋の門を叩いた。「今は弾ける環境にないけれど、いずれまた再開したいです」と言う。

佐渡:驚いたなあ。ぜひ、皆で聴きに来てください。すみだトリフォニーホールでの第九の演奏は12月18日です。

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