増額分の財源については「防衛国債」の発行も検討されているが、国の借金は6年連続で最大を更新して1241兆円に達している。これにさらに防衛国債を発行すると、他の財源にとばっちりがくるのは確実だ。
実際、社会保障関連については、10月から75歳以上の後期高齢者の医療費の窓口負担が、一部で1割から2割に上がる。さらに、1カ月当たり80万円を超える高額な医療費が発生した場合、その一部を国が負担する国民健康保険の「高額医療費負担」制度について、財務省が「廃止に向けた道筋を工程化すべき」とする調査結果を発表。国の負担分を都道府県へ移行するという趣旨ではあるものの、ネット上では今後も制度を維持していけるのかについて不安の声もあがっている。
■菅前首相が抱く岸田氏への私怨
国民生活に直結する問題が物価高だ。
「7月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く)は前年同月比2.4%上昇し、4カ月連続の2%超え。国民からすると、給料が上がらないのに物価高では生活が困窮する。特に電気・ガス代や食料品価格の高騰が続き、政府にとっては大きな懸念材料だ。家計への影響が大きすぎる。現状のまま継続した場合、電力不足も重なれば、国民の不満が爆発する」(シンクタンク関係者)
政府は当面、今年度予算で計上した5.5兆円の予備費を物価高対策に使う方針だが、世界的なインフレ、円安状況に陥り、「国債の金利が上昇して財政が一気に悪化する恐れもある」(経済官庁の中堅官僚)という。
政権をさらに揺るがす「爆弾」になる可能性があるのが、東京五輪を巡る汚職事件だ。贈賄容疑で逮捕された紳士服大手「AOKIホールディングス」前会長の青木拡憲容疑者が東京地検特捜部の調べに対し、大会組織委員会の会長だった森喜朗元首相に「現金200万円を手渡した」と供述していると報じられた。政界関係者はこう語る。
「森氏への現金手渡しの件が報じられたのは、特捜のリークではないか。組織委元理事で受託収賄容疑で逮捕された高橋治之容疑者とつながる現職政治家にも捜査の手が伸びるのではないかと、東京五輪に関わりの深かった政治家の実名が飛び交っており、永田町は戦々恐々としています」
旧統一教会、国葬、防衛費増額、物価高、五輪疑惑──五重苦とも言える難題の一つでも対応を誤れば、岸田政権はさらなる窮地に追い込まれる。
岸田首相は最大派閥の安倍派に対抗して党内基盤を強化するため菅義偉前首相を副総理として迎える案を検討していたが、安倍氏の死去で菅氏優遇も不要となり、河野太郎氏の入閣など菅氏周辺を切り崩すことで政権を安定化させた経緯もある。「菅氏は岸田首相に私怨に近い感情を抱いている」(菅氏周辺)とされ、9月1日夜には同じ非主流派の二階俊博元幹事長と会食するなど、永田町がざわついた。今後の展開次第では「岸田降ろし」が始まる可能性もある。
首相は聞く力だけでなく政治家の要諦である「言葉」でもって数々の難題の説明責任を果たさなくてはならない。(本誌・村上新太郎)
※週刊朝日 2022年9月16日号より抜粋