イラスト/ウノ・カマキリ

 ところが、米国に飛び立って何度もチャレンジを繰り返し、何と大手メーカーであるテキサス・インスツルメンツと契約ができるようになった。そして、稲盛氏の企業のニューセラミックスが米国企業の製品として日本に逆輸入されることになったのである。評価が激変し、日本国内でもどんどん売れるようになったのだ。

 稲盛氏は「アメーバ経営」と言われる経営管理手法も創出した。

「私は経営というものがまったくわかっていなかった。しかし、技術者の特性で、いつも見えている、わかっているという感触がないと不安なので、そこでふと思いついたのが、夜鳴きうどんでした」

 ややこしい会計の常識は全部やめ、会社の経営を夜鳴きうどん屋のレベルにしたわけだ。だから、京セラの会計は実にわかりやすく、建前が何もない。アメーバ群のトータルの決済の報告を受けていれば、経営者は毎日、現在の利益や赤字がどのくらいあるか、経営内容がすっかりわかるわけだ。

 そしてもう一つ、稲盛氏が強調したのは「利他の心」である。自分や組織のための「利己」ではなく、お客さんのため、社会のためを考えているかどうか。

 この稲盛氏の利他主義の徹底こそが、他者にまねのできない、氏が信頼されたゆえんなのである。

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数

週刊朝日  2022年9月16日号

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