■ジェンダー超越していくマンガ
福田:その怖い話が吉祥寺近辺で繰り広げられているという(笑)。
小田:チビ猫の行動範囲が吉祥寺あたりですよね。
よしなが:吉祥寺の井の頭恩賜公園といえば、『ガラスの仮面』の北島マヤが妖精パックを演じたところ。『ガラスの仮面』は、主人公のマヤとライバルの姫川亜弓のシスターフッドの物語ですよね。私、亜弓さんが大好きで、子どもの頃からのエピソードを収録した20巻は宝物なんです。
小田:僕は亜弓さんが、マヤを卑怯な手段で蹴落とした乙部のりえに復讐するところが好きです。
福田:私は1巻のマヤが椿姫のチケット欲しさに真冬の真っ黒な海に飛び込むところ。『ガラスの仮面』は、女の子でも夢中になれることに人生を懸けていいんだよ、と応援してくれるマンガだと思っています。
小田:2人が演劇にのめり込むほど、男たちが背景になり、恋愛の要素がどんどんなくなっていくんですよね。最新刊は違ってきていますけど。
よしなが:美内すずえ先生は、若い女の子同士にある、執着と呼びたいくらい強い関係性のお話も多いです。
小田:僕はよしなが先生が坂田靖子先生を選んだ理由も気になっています。
よしなが:『村野』には、女性向けの男性同性愛雑誌「JUNE」に載った作品も収録されています。BL作家さんにも坂田先生ファンがけっこう多いんですよ。男性の描き方が素敵なんです。
今回はリストアップしなかったんですけど、川原泉先生も大好きです。恋愛が中軸ではない低体温のマンガは、川原先生が先駆けだと思っています。その流れにあるのが、佐々木倫子先生の『動物のお医者さん』とか。
福田:読みたいのは恋愛ではないという読者に向けた「恋をすっとぼける」展開が斬新。一方で、恋愛マンガの王道雑誌「マーガレット」も大人気で。くらもちふさこ先生のデビュー50周年展は、画力が圧巻でした。
よしなが:くらもち先生のすごいところは、斬新な挑戦をしているのに、前衛的と読者に感じさせず、「マーガレット」にすーっとなじんでいることです。
小田:70~80年代のマンガは、パソコンでいう基本ソフトのOS的存在だと思います。当時の作品をベースに、今のマンガの可能性は広がっている。
福田:マンガもジェンダーの垣根がなくなっているから、性別で分ける時代ではないですよね。現実世界の性も男と女の二つだけでなく、繊細なグラデーションになっているし。その両端をつなげると円環になって、さらに中心軸で回転させると球体になる。自分はその球体のどこかにいるんじゃないかと思います。
小田:昔の作品も電子書籍が増えて、読み返しやすくなりました。
よしなが:まだまだ話したい作家さんや作品がたくさんありますよね。話が尽きないです。
(ライター・角田奈穂子[フィルモアイースト])
※週刊朝日 2022年9月9日号