小田:ハッピーエンドと言う人もいるんですよね。狂気のなかであっても、解放されたから。
福田:山岸先生が描く女性は、だいたいクヨクヨしてます。バレエマンガの『アラベスク』のノンナもそう。でも、それから約30年後の『舞姫 テレプシコーラ』ではハッとしたの。『テレプシコーラ』の母親と姉の物語は、『アラベスク』でノンナがキーウに置いてきた母と姉の姿なんだって。
よしなが:そうかも。厩戸皇子は、『テレプシコーラ』のローラ・チャンですよね。厩戸皇子の想いは成就しなかったけど、『テレプシコーラ』では振付師とバレエダンサーとして結ばれて幸せになるんだろうなぁって希望を感じました。作品を読み続けていくと、「あ、今度はこういうふうにお描きになるんだ」と感じる瞬間があって、読者冥利に尽きます。
小田:大島弓子先生の『ダリアの帯』も流産を機に若い専業主婦の主人公が狂気に陥る。『天人唐草』と構造が似ています。でも、『ダリアの帯』のほうが息苦しい。
よしなが:親との関係もよくないんですよね。印象深いのが、夫の「ぼくの前方に寂しさが ぼくの後方に寂しさがあった」と独白する一コマ。『バナナブレッドのプディング』もちょっと変わった女の子の話です。大島先生の狂気に走る登場人物には共感できるものがあって、不思議と身につまされます。
福田:でも暗い感じではないのよね。ラストシーンも、お姉さんが夢のなかで、おなかにいる赤ちゃんに「男と女のどっちが生きやすいか」と聞かれて、「生まれてごらんなさい。最高に素晴らしいことが待ってるから」って答えるんです。
よしなが 希望を感じさせて終わるんですよね。
福田:『バナナブレッドのプディング』は、大島先生の絵の細密さが頂点の頃。その後はシンプルになっていきます。同時期の『綿の国星』も画力がすごくて。幼い女の子が猫耳をつけた姿で「子猫です」って読者を納得させてしまう。
小田:猫にしゃべらせるのは今でこそ珍しくないけれど、当時は勇気が必要だったでしょうね。
よしなが:『綿の国星』は、チビ猫を拾った時夫の気持ちになっちゃう。
小田:素敵な話がたくさんありますよね。
福田:天才です。
よしなが:でも、1話目で年をとった猫が死んでいる竹林で葉がたくさん散っているシーンは怖かったです。生と死がすぐそばにある怖さも『綿の国星』には感じます。