福田:青池先生は少女マンガの恋愛バリエーションの一つとして、男の人にもこんな性愛があると教えてくれたと思います。
小田:青池先生のマンガのおかげで、NATOを知った人も多いはず。
よしなが:少女マンガは歴史や文学を学ぶきっかけにもなりました。池田理代子先生の『ベルサイユのばら』はフランス革命だし、大和和紀先生の『あさきゆめみし』は源氏物語、山岸先生の『日出処の天子』は飛鳥時代。
池田先生が『ベルばら』の前に、貧困家庭の話とか女性教師が恋を問う話とか、社会派のマンガを描いていたのも忘れられないです。
小田:樹村みのり先生も社会派で真面目ですよね。僕は、電子書籍化で再発見されているマンガ家さんだと思ってるんです。
福田:高野文子先生の『絶対安全剃刀』に収録されている「田辺のつる」も発表当時、マンガ界に衝撃が走りました。ぬりえの女の子みたいな絵柄の少女が、じつは認知症のおばあちゃんなんです。ほのぼのした絵なんですけど、年老いることの物悲しさもあって。
小田:印象に残っているマンガは、白泉社が多いです。『日出処の天子』の連載も白泉社の雑誌「LaLa」でしたし。
よしなが:『摩利と新吾』の木原敏江先生や森川久美先生、ひかわきょうこ先生、星崎真紀先生など、黄金期ですよね。
小田:『日出処の天子』の聖徳太子こと厩戸皇子は蘇我蝦夷を好きなゲイの男性。現実世界でゲイはセンセーショナルに扱われがちだけど、少女マンガでは単なる属性の違いでしかない。
福田:蝦夷のことがすごい好きなのに報われない厩戸皇子には、性別に関係なく、共感します。
よしなが:山岸先生の作品でフェミニズムと言えば、『天人唐草』。読後感が強烈で、読んだ人はみんな覚えています。
福田:気が狂った主人公が叫ぶ「ぎえ―――!」のまねで通じますしね。
■作家の変化感じ読者冥利尽きる
よしなが:厳格な家父長制の家で育った女性が30歳間近で結婚せず、友達や恋人もいない。突然死した父を引き取りに行くと、娘に求めた貞淑さ、従順さとは真逆の愛人が迎えるわけでしょ。その帰り道でレイプされてしまう。ラストまで読むと、ただ怖いだけではなくて、しみじみします。