と言っても100%、副交感神経が描いたわけではなく、何%かは交感神経も混ざっています。まあ、絵はこれでいいですが、老齢になっても、やはり交感神経が作用していて、生活の中にイライラを持ち込みかねません。僕も24時間、副交感神経に左右されているわけではなく、時にはストレスによって、絵に影響を与えかねません。絵の中での交感神経は絵に不思議な刺激を与えて、逆に面白い効果を出してくれることもあります。いわゆる交感神経と副交感神経によって自律神経にバランスを与えて、バランスとアンバランスが上手く融合した絵ができることがありますが、これとてストレスの産物から生まれた絵か、ということになると困るのです。絵にはストレスはいっさい介在してもらいたくないからです。ではストレスの原因は何か、ということになります。これは厄介な問題で、例えば毎日放送されるニュースにストレスを感じることがありますが、この社会的ストレスは断ち切ることはできますが相手が人間の場合は困ります。

 先日、本誌の帯津良一先生の「ナイス・エイジングのすすめ」で交感神経と副交感神経について素晴らしい見解を述べておられましたが、交感神経にブレーキをかける方法として「不必要な情報を無視する勇気を持つことです。(中略)必要なことだけに目を向けましょう。そして周りの人を気にしない鈍感力を持つこと」で交感神経の高まりを抑えることができるとおっしゃっていました。交感神経を高めるストレスの原因が実は周りの人を気にする結果から来ているというのは、意外と気づかないことです。そしてそのような負の環境に対して「鈍感力」を必要とする発想が、自律神経のバランスを取ることに気づく必要があります。

「鈍感力」は芸術にも必要です。鈍感力は芸術と対立する概念のようにとられがちですが、創造の根源には鈍感力が必要だと思います。ある意味で芸術はいい加減であるべきです。生真面目な芸術など面白くもおかしくもないです。芸術における道徳など不必要です。芸術のオリジナル性を主張する立場の人もいますが、芸術にはオリジナルは存在しません。鈍感でいいのです。芸術は生き方です。帯津先生のおっしゃる「鈍感力」こそ人生の生き方だと思います。

横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。20年東京都名誉都民顕彰

週刊朝日  2022年9月9日号

著者プロフィールを見る
横尾忠則

横尾忠則

横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。20年東京都名誉都民顕彰。

横尾忠則の記事一覧はこちら
暮らしとモノ班 for promotion
防災対策グッズを備えてますか?Amazon スマイルSALEでお得に準備(9/4(水)まで)