「まず、理解しがたい重大事件を起こす少年少女には、元々こだわり思考が強い傾向をもつことが少なくありません。一つのことを考え出すと、視野が狭くなって循環し、そこから抜け出すことが難しくなりがちです」(長谷川さん)

■周囲の理解と助け大切

 次の成育過程における環境とは、これまでに経験してきた家庭内外の人間関係全般を指す。たとえば、少女は母子家庭だった。両親が離婚に至るプロセスは明らかになっていないが、それを含めた親との関係性が少女に影響を与えた可能性がある。さらに少女は、中学1年の3学期ごろから断続的に不登校になっている。学校での他の生徒や教師との関係も無縁ではない。トリガーになりうるのは、自分の関心を引き、脳が興奮するような出来事などの情報に触れることだという。

「事件の原因や動機は、単純ではありません。これら三つが段階ごとに、無数の要素が複雑に絡み合って起きるものです。予防の観点から大切なのは、周囲の理解と助け。また、犯した罪に対しては然るべき対処が必要ですが、過去に理解と助けが必要だった少年や少女が加害者になり罰せられる立場になっていることへの想像力を持つことも重要です」(同)

 少年事件で精神鑑定の経験がある児童精神科医の高岡健さんは、子どもたちの「居場所」の必要性を説く。

「思春期の子どもたちにとって、居場所というのは自分を肯定してくれる人がいる場所です。自分を認めてくれる人がいれば、自分の価値を下げたくないので、自殺や他殺に向かう確率は減っていきます。逆に居場所がなければ、自分を認めてくれる人がいないので、これ以上何をやっても無駄だと思い、自殺や他殺に向かう可能性が高くなります」

 15歳の少女に「居場所」はあったのか。(編集部・野村昌二)

AERA 2022年9月5日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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