
東京・渋谷で母と娘が15歳の少女に刺された。少女は「死刑になりたかった」と供述した。事件の背景には何があったのか。AERA 2022年9月5日号の記事から。
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15歳の思春期の少女に何があったのか。8月20日夜、東京都渋谷区の路上で母親(53)と娘(19)が刃物で背中などを刺され、大けがをした。殺人未遂の疑いで逮捕されたのは、埼玉県戸田市に住む15歳の中学生だった。
元埼玉県警刑事で数多くの少年事件を担当してきた佐々木成三(なるみ)さんは、少女の「強い意志」を感じたという。
「少女は刃物を3本用意していました。最後まで、複数の人を刺すことを目的とした犯行だと思います」
■「死刑になりたかった」
佐々木さんは、今回の事件は無差別殺傷を行う容疑者の特徴と一致していると話す。
「それは、想像力の欠如と視野の狭さ、そして認知の歪(ゆが)みです。少女は犯行の動機として、『母親の嫌なところが自分に似てきて嫌だった』などと供述しています。しかし、母親は娘への愛情から厳しく接していたかもしれず、それを少女は愛情だと感じ取れていなかった。視野が狭く、他人への感情が欠けていたりすると、逸脱する行為につながる場合があります」
重大な少年事件は続いている。一昨年8月、福岡市の商業施設で当時15歳の少年が面識のない女性(当時21)を刺殺した。今年1月には、東京大学(東京都文京区)前の路上で受験生らが当時17歳の少年に切りつけられる事件が起きた。
今回事件を起こした少女は、母と弟の3人暮らし。調べに対し「自分の母親と弟を殺すつもりだった」「死刑になりたかった」と供述しているという。
犯罪心理に詳しい、「こころぎふ臨床心理センター」の長谷川博一センター長は、少年事件が起きる背景には(1)本人が生来的に持っている特性、(2)成育過程における環境、(3)事件行動に繋がるトリガー──この3点が重要因子として必ず存在するという。少年は大人と比べ情緒的に急激な発達を遂げる途上にあるため、三つの因子が複雑に絡み合うリスクが高いという。