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 最初はドキュメンタリーを考えていましたが、彼女を2週間追いかけ、「あまりに危険すぎる」とフィクションに舵を切りました。彼女と同じ誘拐事件の被害者たちにも取材をし、物語を作りました。

 シエロは最初、従順でか弱い女性に見えます。しかし娘を誘拐され、警察も軍も元夫も頼りにならないと悟ったとき、自分で行動することを決め、超人的な力と執念を発揮して闘い始めます。大きな悲劇に見舞われたとき人はいかにそれに対抗し、自己を回復しようとするのか。そんなヒロインの力強さを見てもらえればと思います。

テオドラ・アナ・ミハイ(監督)Teodora Ana Mihai/1981年、ルーマニア生まれ。ニューヨークの大学で映画を学んだ後、ベルギーの映像業界で働く。長編ドキュメンタリーを経て、本作が劇映画初監督作。20日から全国で公開

 しかし、闘いには代償が伴います。彼女は行動することで一般的なモラルを失ってもいくのです。そしてモデルであるミリアム・ロドリゲスは2017年の5月10日、母の日に自宅前で残酷に殺されました。言い表せないほどのショックを受けましたが、彼女を撮影していた2016年、我々スタッフの心には「この人はいつか殺されてしまうだろう」という哀しい予感があったのです。彼女の死によって私はラストシーンを変えました。ぜひみなさんに、このラストの解釈を預けたいと思います。

(取材/文・中村千晶)

AERA 2023年1月23日号

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