メキシコ北部に暮らすシングルマザーのシエロ(アルセリア・ラミレス)の10代の娘が、犯罪組織に誘拐された。元夫と身代金を支払うが、娘は帰らない。シエロは一人、闘いをはじめる──。連載「シネマ×SDGs」の36回目は、メキシコで多発する「誘拐ビジネス」の闇に迫った作品。実在のモデルが衝撃的な結末を迎えている「母の聖戦」のテオドラ・アナ・ミハイ監督に話を聞いた。
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私はチャウシェスク政権下のルーマニアを逃れ、8歳でベルギーに移住しました。その後、思春期をカリフォルニアで過ごし、そこで多くのメキシコ人の友人と出会ったことが本作のはじまりです。
危険な環境で青春を過ごす若者のドキュメンタリーを企画していたとき、知人を通じてヒロイン・シエロのモデルとなった女性ミリアム・ロドリゲスに出会いました。見た目はまったく普通の主婦である彼女は、私に「私は朝起きると人を殺すか、自殺するかを考える」と言ったのです。その言葉の暴力性に衝撃を受け、何が彼女をそうさせたのか描きたいと思いました。