■解体費を出せず公費投入の例も
だが今はそうしたマンションは減少。敷地や容積率に余裕があったとしても、駅から遠いなど、住宅ニーズの低い地域では、建て替え事業に協力するディベロッパーは出てこない。米山さんは言う。
「建て替え費用を自分たちだけで捻出することは非常に困難。一方で、ディベロッパーが建て替えに協力するような好立地の物件は限られています。現状でも修繕積立金が不足気味のマンションが多い中、建設費や工事費も高騰している。そんな中で建て替えとなると、区分所有者から多額の一時金を集めなければ、建て替え費や解体費を捻出することができない」
実際に、自分たちで解体費を賄えず、億単位の公費が投入されるに至ったケースもある。滋賀県野洲市で2年前に取り壊された1972年築、鉄骨3階建て、全9戸のマンション。管理組合も存在しない同マンションでは、10年以上前に住人がゼロになり、廃墟化の一途をたどった。さらに建物から有害物質であるアスベストが飛散する恐れがあり、周囲に住む住民からも一刻も早い解体を望む声が上がっていた。
対応に追われた市は、区分所有者に連絡を試みるも、所在不明の人もおり、全員の合意形成が得られなかった。そこでやむを得ず、空き家対策特別措置法に基づく行政代執行を決め、2年前に行政主導で解体に踏み切った。解体にかかった額は、約1億1800万円。解体後に各所有者に対し、約1300万円ずつ請求するも、これまでに支払われたのは3人分のみだという。
「こうした事例は、今後10~20年先に、各地で頻発する可能性がある。どんなマンションも古くなれば当然、最後は壊す必要が出てきます。そのとき、所有者が責任を果たさないとなると、行政が強制的に何らかの措置を取らざるを得ない。マンションも一戸建て住宅の空き家と同じ状況になっていくことが予想されます」(米山さん)
マンションは私有財産であるため、本来は解体まで所有者が行うべきことだ。しかし、解体まで考えた資金計画を立てているマンションはほとんどないのが現状だという。買う側としても、マンションの処分のことまで考えて購入する人はまれだろう。