ちなみに35度超えの昼はカフェで仕事してエアコンの風をありがたくお借りさせていただいている。ってことで、昼も夜も不快に思うことがほぼなかった素敵な夏が去っていくのがなんとも寂しい今日この頃。
で、どうしてこんな個人的感想をわざわざ書き留めておこうと思ったのかというとですね、この「夜に風が吹いた」という今夏の美点を誰も知らないんだもん。「暑いよねー」と言われ、でも朝晩は風が吹いて気持ちいいよネと言ってもほぼ全員が「?」。ナルホド皆様風の動向など知らないのだ。確かにこう暑くっちゃあずっとエアコン入れっぱなしでしょうから、そんな涼しい家から一歩出たり、あるいは窓を開けたりしたら、多少の風が吹いたところで「暑い!」という感想しか持ち得ないのでありましょう。
なるほど暑さの中で過ごしているからこそわずかな涼しさも全力で察知できるのだ。ってことで、エアコンをなくしてからというもの年々夏が好きになる私。今や日本有数の「夏の味方」かも。ああ早く来年の夏が来ないかな……とか言ってみる。
◎稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
※AERA 2022年8月29日号