理由はこうだ。会社員経験者が受け取る基礎年金と厚生年金のうち、基礎年金は基本的に定額だが、厚生年金は現役時代の給与や賞与が多いほど年金額も多くなる。そのため、現役時代の給与が少ない人ほど受け取れる厚生年金が少なく、年金全体に占める基礎年金の割合が大きくなり、生活に苦しむ高齢者が増えてしまう、というわけだ。

※厚生労働省が2019年8月27日に公表した「令和元年財政検証結果」(詳細結果等)から試算。前提は、同資料の経済前提の各ケース(I~VI)のとおり(人口はすべて中位)。同資料の結果のうち、法律上の給付水準の下限を無視して年金財政がバランスするまで機械的に給付を調整(抑制)した場合を利用。
※上記の年金額は、将来の年金額の目減りを現在の生活感覚で実感できるよう、将来の年金額を賃金上昇率で現在価値(2022年度価格)に換算したもの(例:年金額が1%増えるが世間の賃金が2%増えている場合→年金は実質的に1%の目減りとみなす)。賃金上昇率で現在価値に換算するのは、今後の年金額の伸びは物価の伸びを概ね上回るものの現役世代の賃金の伸びを概ね下回り、年金受給者が社会の中で相対的に貧困化する方向に働くため。なお、厚生労働省が公表している将来の年金額は物価上昇率で現在価値に換算したものなので、この試算結果より高い値となっている。(AERA2022年8月29日号)
※厚生労働省が2019年8月27日に公表した「令和元年財政検証結果」(詳細結果等)から試算。前提は、同資料の経済前提の各ケース(I~VI)のとおり(人口はすべて中位)。同資料の結果のうち、法律上の給付水準の下限を無視して年金財政がバランスするまで機械的に給付を調整(抑制)した場合を利用。 ※上記の年金額は、将来の年金額の目減りを現在の生活感覚で実感できるよう、将来の年金額を賃金上昇率で現在価値(2022年度価格)に換算したもの(例:年金額が1%増えるが世間の賃金が2%増えている場合→年金は実質的に1%の目減りとみなす)。賃金上昇率で現在価値に換算するのは、今後の年金額の伸びは物価の伸びを概ね上回るものの現役世代の賃金の伸びを概ね下回り、年金受給者が社会の中で相対的に貧困化する方向に働くため。なお、厚生労働省が公表している将来の年金額は物価上昇率で現在価値に換算したものなので、この試算結果より高い値となっている。(AERA2022年8月29日号)

■自営業者優遇は誤解

 国も制度改革の検討を始めているが、SNS上では「自営業者優遇だ」など批判も多いという。だが、この指摘は「誤解」と中嶋さんは言う。

「基礎年金が大きく下がるのに対し、厚生年金は少ししか下がらない、このギャップが問題なので、両方が同じ時点で下げ止まるようにして公平性を保つのが目的です。自営業者や低所得の人を有利にする話ではなく、基礎年金しか受け取れない人に厳しい逆進的な現行制度の是正といえます」

 25年度の制度改正も視野に検討は進む見通しだが、いずれにしろ老後も働かざるを得ない人は増える、と中嶋さんは言う。

「日本の人口はこのままだと、30年後に65歳以上が4割近くになります。15歳以下の子どもと合わせると国民の半分が働かない国になってしまう。それでは回りません。老後も働いて年金を受け取る時期を少し遅らせ、割り増し受給で減額分をカバーするのが現実的です」

 中嶋さんの試算では、30代の人も70歳手前まで受給を繰り下げれば、現在の高齢者と同水準の年金を受け取れるという。

「最大の老後資産は働き続けることだと思います」

 こう話すのは、リクルートワークス研究所の坂本貴志研究員だ。

「高齢期の生活にどう備えるかとなると、投資や貯蓄などストック(保有資産)に依存する発想になりがちですが、仮に2千万円の貯蓄で80歳まで持つと積算しても、90歳まで生きれば前提が吹き飛びます。働けるうちは働き、可能であれば年金を受け取る時期を遅らせることでフローとしての収入をしっかり確保する概念が大事です」

 とはいえ、さすがに生涯現役で働くのはきつい。が、実は老後はそれほどお金がかからない、と坂本さんは言う。

 19年の国の家計調査によると、2人以上の世帯の支出は50代の平均値が月60万円弱だったのが、60代前半で約43万円、60代後半で約32万円、70歳以降は30万円弱と段階的に減る。減額の3大要因は、住居費と教育費、非消費支出だ。非消費支出とは、所得税や住民税、年金保険料や医療保険料。坂本さんは「これらが相当減る前提で、その時々の状態にあった仕事を無理なく選べば家計も十分賄えます」とアドバイスする。

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